萩原ゆき、横山恵利香

  • 法制化明言の小泉氏は世論調査で支持に陰り、保守層離れ指摘も
  • 経済界の後押しで自民党は3年ぶりに議論再開、意見集約めど立たず

自民党総裁選で「選択的夫婦別姓」制度導入の是非が争点の一つとなっている。複数の候補者が対立軸を打ち出すため、明確な立場表明をした形だが、制度化への見通しは不透明だ。

  小泉進次郎元環境相が、選択的夫婦別姓を認める法案を1年以内に国会提出するとの考えを示したほか、河野太郎デジタル相も「選択肢のある社会にすべきだ」と主張。石破茂元幹事長もコンセンサスを作ることを条件に賛成姿勢を示した。

Shinjiro Koizumi Announces Candidacy For LDP President
小泉元環境相Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  これに対し、高市早苗経済安全保障担当相は旧姓の通称使用拡大や自治体への義務付けを行うとして慎重論を展開。小林鷹之前経済安全保障担当相も同様の見解を示した。

  法政大学の白鳥浩教授は、自民党内では「派閥がなくなりゼロベースでの議論」ができるようになった中で、候補者が刷新感で注目を浴びる小泉氏との違いを打ち出す必要に迫られたことが背景にあると指摘。一方で、自民党員を対象とした世論調査では小泉氏の支持に陰りが見えるなど、「法制化の明言が保守層の支持離れ」につながった可能性があるとの見方を示した。

  選択的夫婦別姓は、1996年に法制審議会が導入を盛り込んだ民法の改正案要綱を答申したが、自民党内の意見がまとまらず、法案は提出すらされていない。白鳥氏は、小泉氏が主張するように党議拘束を外して議論できたとしても、自民党の現状を考えれば法案が成立しない可能性もあるとして、「選挙戦の議論が実現への道筋をつけるわけではない」との見方を示した。

経済界の後押し

Sanae Takaichi Announces Candidacy For Japan's Prime Minister Race
高市経済安全保障担当相Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  労働力不足に直面する経済界は、選択的夫婦別姓の実現を求めている。経団連は6月、旧姓の通称使用で生じるトラブルが「企業にとってビジネス上のリスク」になっているとして、制度の早期実現を求める提言をとりまとめた。

  総裁選後の10月1日には、経団連でダイバーシティ推進委員長を務める魚谷雅彦資生堂会長兼CEOや経済同友会副代表幹事の田代桂子大和証券グループ本社副社長らが参加し、「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるシンポジウム」を開催する予定だ。

選択的夫婦別姓実現へ、一刻も早い法改正案提出を-経団連が初提言

  慶応大学の阪井裕一郎准教授は、経団連が「夫婦別姓を認めることは経済的に大事」と示したことが、今回の議論につながったと指摘。経済がグローバル化する中で、日本だけが多様な選択肢を認めていないことへの問題意識が生まれたとしている。

  多くの企業では結婚前の姓の通称使用が定着しているが、税や社会保障手続きに際し、戸籍上の姓と照合する負担が生じている。経団連の資料によると、婚姻時に夫婦同姓しか選択できない国は日本のみとされており、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)が2003年以降、3回にわたって勧告を行ったことも指摘している。

LDP Leadership Election Candidates News Conference
石破元幹事長Photographer: Franck Robichon/EPA/Bloomberg

  スタンフォード大学の筒井清輝教授は、日本では高度経済成長期に夫が外で働き、妻が家族の面倒を見ることで労働人口を再生産するモデルが定着し、その後、女性の社会進出が進んでもジェンダーに関する文化や制度の変化は総じて遅いと指摘。ただ、今回実現しなかったとしても、姓を選択できない状態が何十年も続くことはないだろうとの見通しを示した。

党内議論

  自民党は7月18日、「選択的夫婦別姓」制度についての議論を約3年ぶりに再開した。経団連などの早期導入を求める提言を受けた形だが、会合では「伝統的家族観の維持」や「兄弟で違う姓を名乗ることの弊害」を理由に、制度導入を問題視する発言が相次ぎ、意見集約のめどはたっていない。

  8月29日に行われた同作業チームの部会では座長をつとめる逢沢一郎元国会対策委員長が、総裁選の「それぞれの候補者が自らの思いや目指す方向をしっかり語ることが大事」と述べ、30年来停滞したままの問題についての議論を行うべきだとの考えを示した。