朝ドラの「虎に翼」が終了した。面白かった。戦前、女性初の弁護士となり、のちに裁判官に転じた三淵嘉子氏をモデルとしたドラマだ。堅苦しい法律に初の女性弁護士。差別と法の下の平等。ドラマとしては扱いづらいテーマだ。主役の猪爪寅子(結婚して佐田に改姓)を演じる伊藤沙莉や最高裁長官まで上りつめた桂場等一郎を演じる松山ケンイチ、弁護士・山田ヨネの土居志央梨など、出演者の演技力がドラマを盛り上げた。朝ドラでは珍しいほど、日常生活にさりげなく潜んでいる差別が随所で取り上げられていた。憲法の第14条の条文が書き殴ったかのようにセットの壁に書かれている。「すべての国民は、法のもとに平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」。条文の建前と現実がいかに乖離しているか、それがこのドラマのテーマでもある。

主役の名前が猪の爪に寅である。脚本を書いた吉田恵里香氏もきっと寅ちゃんに負けず劣らず直言家なのだろう。戦前は男尊女卑が当たり前だった。戦後生まれの私にもそんな時代の雰囲気は理解できる。その時代に弁護士を目指した三淵嘉子という人は、相当芯の強い人だったのだろう。伊藤沙莉はこの役どころを見事に演じ切った。最終回を見終わって幾つかの名場面が蘇る。仕事に没頭して一人っ子の優未との間に隙間が生じる寅子。泣いて現実を訴える花江。「寅ちゃんは何も知らないのよ。優未は寅ちゃんに心配をかけまいと、ずっといい子ぶっているの」。「はて?」、我が子の現実に気づかない寅ちゃん、女性が社会で活躍する本当の難しさを描き出している。最初から最後まで“渋面”を貫いた桂場。法律の下の平等という建前と、政治家、学者、官僚が司る社会との板挟みになっている現実を象徴しているかのようだ。笹竹で働く梅子が餡子づくりに挑戦する。その味見役を桂場が務める。評価の基準は塩加減ではないか、ドラマの筋書きと離れて勝手に想像したりした。

家庭裁判所の立ち上げ、戦争直後の貧困に喘ぐ少年たちと法律、尊属殺人の合憲性、L G B Tや障害者、少年法の改正など法の下の平等はあくまで建前。差別と排除と法律を司る大人たちの勝手な法律解釈。そんななかで面白かったのは、少年法の改正問題だ。政治家や司法省のお偉方が目指す少年法の改正に向けて審議会が設置される。メンバーは高級官僚や学識経験者などに加え、実務を担当する寅ちゃんをはじめとした家庭裁判所の面々。寅ちゃんをはじめ家裁関係者が犯罪少年の更生には「愛」が必要だと強調するのに対して、現場を知らない高級官僚の面々は「???」、首を傾げるばかり。寅ちゃんの「はて?」とは異質の?マークだ。脚本家の吉田氏は閉塞感漂う現在の政治状況の裏で蠢く政治家、高級官僚や学識経験者を当て擦るようにこのシーンを書き込んだのだとすれば、エンターテインメントの底上げにもなっている気がした。いずれにしても面白いドラマだった。来週から新しい朝ドラが始まる。期待しよう。