[香港 24日 ロイター] – 中国が今月、法定退職年齢の段階的引き上げを決定した。年金財政赤字の解消と縮小を続ける労働力人口の回復に向け、ようやく第一歩を踏み出した格好だ。ただ経済の減速に伴って今後さまざまな痛みがより大きくなる以上、エコノミストや人口動態の専門家らは、さらなる改革が待ったなしだと主張している。
少子高齢化は世界共通の現象だが、中国では30年続いた一人っ子政策によって人口構成がいびつになった影響から、特にその傾向が鮮明。昨年の出生人口は900万人に落ち込み、国連の見通しに基づくと中国の労働力人口は、現状の出生率が続けば2010年から50年までで40%近くも減ることになる。
中国では老いも若きも、こうした変化に懸念を深めている。政策担当者が都市部と農村部の年金格差や社会の安定化、若者の高失業率に有効な手を打てていないからだ。
ナティクシスのアジア太平洋チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「年金問題は今すぐ解決しなければならない。なぜなら、今ならまだ赤字を穴埋めするために必要なある程度の経済成長を確保できているからだ」と述べた。
2000年代初めに8%前後だった中国の成長率は5%前後まで鈍化している。しかし同氏によると、35年以降は最低1%程度に下振れしかねないという。
全国人民代表大会(全人代)は今月、こうした世間の不安を踏まえ、1950年代に定めた法定退職年齢の引き上げを市中協議なしで迅速に決めた。
新華社が伝えたところでは、李強首相は、退職年齢引き上げについて中国の社会保障制度を改善する「重要な動き」で、セーフティーネットの強化と人民の生活向上につながると発言した。
それでも中国の公的年金財政は依然としてひっ迫している。
省レベルの年金財政は全体の約3分の1が赤字運営で、中国社会科学院は、改革を実行しなければ35年までに年金の財源は枯渇すると警告した。
また都市戸籍の住民は、中小都市でも毎月およそ3000元(約6万1200円)、北京や上海なら6000元前後の年金が支給されるのに対して、農村戸籍の住民は09年にやっと公的年金の支給対象となったが、金額は雀の涙でしかない。
<納付期間延長>
中国の人口に占める60歳以上の比率は35年までに少なくとも40%まで上昇し、全体で4億人と、米国と英国の合計人口に匹敵する見通しだ。
働き手のうち、多額の年金がもらえる公的セクターの労働者は定年延長を選択する動機は乏しい半面、年金が少ない農村部からの出稼ぎ労働者はより長く仕事を続けようとする。
一方今回の決定には、年金受給対象となるための保険料の最低納付期間が15年から20年に延ばされることも盛り込まれている。
香港科技大学のスチュアート・ギエテル・バステン氏は、単発契約や非正規労働が増えている現状を踏まえると、最低納付期間の延長によって、多くのブルーカラー労働者にとって年金受給資格を得るのが一段と難しくなる恐れが出てくると指摘した。
またガベカル・ドラゴノミクスの中国消費者アナリスト、エルナン・クイ氏は、定年引き上げが労働者の懐を潤す効果は当面限定的にとどまると予想する。その理由として、多くの労働者にとって定年延長は選択制だが、最低納付期間が長くなるのは義務である点を挙げた。
ムーディーズのアナリスト、ジョン・ワン氏は、定年制度改革の成否は、技能を備えた高齢者をそろえられるか、技術革新に即した仕事や適応力を提供できるかといった問題にうまく対処できるかどうかにかかっているとの見方を示した。