▽比例300万票減 大阪以外は退潮する維新、トップ2人の温度差と「馬場降ろし」の声<産経ニュース>2024/10/29 13:55
「全勝」維新の実像㊦
衆院選が開票された27日夜、大阪市内のホテルで開かれた日本維新の会の記者会見。公認候補の当選確実が順次明らかになる中、代表の馬場伸幸が柔和な雰囲気をたたえていたのに対し、維新共同代表で地域政党「大阪維新の会」代表も務める吉村洋文は厳しい表情を崩さなかった。対照的な表情は、国政と大阪(地方)の認識の差を物語っていた。
野党で「独り負け」
自民党の派閥パーティー収入不記載事件を批判してきた馬場は「(自公の)過半数割れが実現されれば、その一翼を担ったと自負してもいい」と胸を張った。
これに対し吉村は「大阪の小選挙区では自民への批判の受け皿になれたが、一歩離れると期待値が立憲民主党や国民民主党に及ばなかった」と分析。「厳しい状況の中でも、自民ではなく維新に投票してくれた有権者の信頼を裏切ってはならない」と強調した。
ふたを開けてみれば、立民が公示前の98議席から148議席へと大幅に増やし、国民も公示前4倍の28議席に躍進する一方、維新は43議席から38議席に減らし、「野党で独り負け」(吉村)の結果に終わった。衆院選で掲げた野党第一党の目標には遠く及ばず、全国政党化も夢と消えた。
通常国会で迷走
会見であえて「信頼」に言及してみせた吉村の脳裏に、先の通常国会での政治資金規正法改正を巡る維新の迷走があったことは想像に難くない。
馬場は当時の首相、岸田文雄と会談し、国会議員に月額100万円が支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)について、使途公開の義務付けなど立法措置を講じることで合意した。維新は衆院で自民が提出した同法改正案に賛成したが、合意文書に実施時期が明示されていないとして党首間合意は事実上決裂。参院の採決で維新は反対に転じた。
議員報酬削減などで政策の財源を生み出す「身を切る改革」を一丁目一番地とする維新内には、「政治とカネ」の問題で「主導権を発揮できる」(国会議員)との自負があった。しかし国会対応での迷走により、逆に厳しい視線を向けられる事態となった。
抜きがたい「溝」
「是々非々」という口癖が象徴するように、馬場は不記載事件に対する批判が過熱する前、維新の存在感を発揮するため、政策の内容次第で与党との協調も辞さないとの認識を持っていた。かつては自民との連立政権について「全ての可能性を否定しない」とも公言していた。
これに対し大阪では、納税者の立場で「自民をピリッとさせる野党」という維新創設者の松井一郎の考えを継承し、自民と一線を引く議員が少なくない。吉村も「与党入りは維新の消滅を意味する」というのが持論だ。
衆院選で与党が過半数割れに至った今、馬場も連立入りは否定するが、国政と地方の間には抜きがたい溝が横たわる。両者の軋轢(あつれき)は今回の得票数をみてもうかがえる。
維新は大阪でこそ全19小選挙区を制する一強ぶりを示したものの、比例代表票は全国で511万票と令和3年の前回選から約300万票も減らした。選対関係者は「全国的な逆風の要因は自民に翻弄(ほんろう)された規正法改正への対応だ」と指摘。維新が大阪府内で進める教育無償化などの改革は府外で実感が得られず、大阪以外の候補には追い風にならなかったとみる。
代表選実施は…
維新は大型選挙後に代表選を実施するかどうかを決める。ただ衆目が一致する「ポスト馬場」候補の国会議員は見当たらない。
松井と同じく党創設者の橋下徹は衆院選後、自身のX(旧ツイッター)で馬場の冒頭発言について《相変わらずズレが激しい》と批判した。さらに《代表選はマストやろうけど、まず執行部総辞職はマスト》との見方を示した上で、馬場に対し《代表にしがみついたら党内信用が0になるという事態予測もできないのか》と手厳しい。
大阪全勝と公示前からの議席減という結果を前に、「馬場降ろし」に向けた動きは起きるのか。国政に関わる独自の看板政策を打ち出せない中、改革政党を標榜(ひょうぼう)する維新の存在意義が問われている。(敬称略)
「全勝」維新の実像㊤ 維新VS公明、白票でつかんだ薄氷の勝利
▽維新VS公明、逆風同士対決の決まり手は「消去法」だった 白票でつかんだ薄氷の勝利<産経ニュース>2024/10/28 20:54
「全勝」維新の実像㊤
衆院選投開票から一夜明けた28日、大阪府内の全19小選挙区で完勝した日本維新の会の幹事長、藤田文武の表情に高揚感はなかった。地元で駅立ちした後、記者団に「何とか踏みとどまった」と語った。
維新は今回の衆院選において大阪、兵庫の計6小選挙区で公明党と初めて直接対決した。狙いを定めたのは、令和3年の前回選まで公明が議席を持っていた府内4小選挙区で、白紙で投じられた票(白票)だった。
平均上回る無効票
平成26年と29年、令和3年の衆院選で4小選挙区のうち、大阪3、5、6区は主に公明と共産党または公明と立憲民主党の対決が軸となった。
白票を含む無効票は平成26年が11~15%台で、府内全体の4%台を大きく上回る。29年は8~10%台、令和3年は8~12%台に上り、それぞれ府内全体の3%台より高かった。維新幹部は「白票は投票先がないという意思表示だ。選択肢を用意した」と話す。
維新側は今回、公明が浸透しにくい保守層を意識し、外交・安全保障や憲法改正を中心に訴えた。結果、大阪16区を含む4小選挙区の無効票は2~3%台。即断はできないが、有権者の投票行動が変化し、維新に有利に働いた可能性がある。
最終盤のてこ入れ
公明がこれまで議席を確保してきた大阪、兵庫の6小選挙区は「常勝関西」といわれる強固な地盤とされる。維新は大阪の小選挙区で原則、比例代表との重複立候補を辞し「背水の陣」を敷いた。選挙戦後半には公明と対決する維新陣営からの要望を受け、共同代表の吉村洋文が最終盤で集中的に大阪をてこ入れする方針が決定。19小選挙区の勝利につながったとみられる。
ただ比例代表近畿ブロックでの獲得議席は前回選の10から7に減少。全体の議席数も公示前から減らした。藤田は28日、記者団に「大阪であっても厳しい戦い。薄氷を踏むような勝利だった」と語った。
日本維新の会は令和3年の前回衆院選まで、公明党が議席を持つ関西の小選挙区への候補擁立を避けてきた。看板政策「大阪都構想」実現への協力を得るためだが、住民投票で2度否決された都構想を当の維新が封印。昨年の統一地方選で躍進したのを機に、対公明主戦論が強まった。
予備選「メリットなし」
党内では公明と争う小選挙区候補予定者を決める予備選が行われたが、対立相手の醜聞を暴露し合うなど泥仕合に発展するケースも。ある維新議員は「メリットは何もなく、しこりだけが残った」と嘆く。実際、公明と今回対決した陣営によると、応援弁士のスケジュール調整などに追われる中で関係者の動きが鈍かったという。
党に対する逆風もあった。2025年大阪・関西万博の予算膨張が批判を浴びたほか、政治資金規正法改正を巡り、国会で自民党と歩調を合わせたことにも厳しい視線が向けられた。兵庫県の告発文書問題への対応が後手に回るなどして、政党支持率が下落した。
こうした状況で維新が選択したのが「消去法」だった。
「無償化」アピール
共同代表の吉村洋文は街頭演説で、自民の派閥パーティー収入不記載事件に絡み非公認となった候補らを推薦する公明にも批判の矛先を向けた。一方で高校授業料無償化など大阪での維新の実績を説明し「(自公の)裏金政治がいいのか、改革で大阪を立て直し、成果を出している僕たちの政治がいいのか。どっちが、ましか」と有権者に判断を求めた。
ただ大阪以外では立憲民主党や国民民主党の後塵を拝する結果に。吉村が「(野党の中で)大阪以外は一人負け。全国的には完敗だ」と語るように、全国政党化に向けては、なお課題が残る。(敬称略)
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衆院選で維新は大阪の19小選挙区で全勝する一方、全国での獲得議席数は伸び悩んだ。「全勝」の実像に迫る。
「全勝」維新の実像㊦比例300万票減 大阪以外は退潮する維新、トップ2人の温度差
維新、大阪全19区制覇の朝 新人たちは笑顔で街頭へ 全国では苦戦も地元では負け知らず