世界がドナルド・トランプ氏の米大統領復帰の可能性とそこから生じ得る圧力に身構える中、日本は再び政策の停滞局面に陥るリスクがある。
27日の衆院選では1990年代以降初めて明確な勝者が生まれず、弱体化した政権が世界第4位の経済大国をかじ取りすることがほぼ確実となった。現時点で首相を辞任する意向はないと表明した石破茂氏が続投するだろう。自民党は、当時の民主党が地滑り的勝利を収めた2009年の衆院選以来、初めて過半数割れを喫した。
「国防オタク」を自認する石破氏が政権を維持したとしても、不安定な政権運営は、ウクライナでの戦争や、中国が圧力を強める台湾への支援といった国際問題において、日本が引き続きより大きな指導的役割を担うことができるのかという疑問が生じる。また、金融・財政刺激策に過度に依存してきた数十年を経て、より正統な政策決定への日本の取り組みを遅らせる可能性もある。こうした動きが今年、市場の混乱につながった。
石破氏は9月の自民党総裁選で勝利して間もなく、衆議院の解散・総選挙の賭けに出た。しかし今、戦後最も在任期間が短い首相の1人にならないために厳しい試練が待ち受けている。連立与党では215議席と過半数に届かず、首相の座にとどまるには233議席を確保する必要がある。報道各社によると、首相指名選挙は11月11日にも行われる予定。
戦後の短命政権
その差を埋める鍵は国民民主党が握っているかもしれない。同党の玉木雄一郎代表は28日、自民主導の連立政権への参加を繰り返し否定した一方、税額控除額の引き上げを含む幾つかの政策課題について協力する用意があると語った。非課税所得控除を拡大すれば税収は減るが、低所得労働者が恩恵を受けるルールの変更だ。
連立政権を維持するための取り組みを踏まえると、日本が今後も財政支出に頼る状態が続くことが予想される。石破氏は既に、昨年を上回る規模の経済対策を今秋にまとめる考えを示しており、歳出増加の圧力が高まることになる。
日本銀行にとっても、国民民主などの要求を受け入れて厳しい家計や中小企業への支援強化に石破氏が動けば、政策金利の引き上げを継続することがさらに難しくなる可能性がある。選挙結果に対して為替市場は円安で反応し、石破氏が安定政権を樹立できるかどうかの不確実性にもかかわらず株価は上昇した。
トランプ前大統領の任期とほぼ重なっていた安倍晋三元首相の時代と比較すると、来週の米大統領選で共和党候補がホワイトハウスを奪還した場合、日本の政権は不安定なため米国の要求に応えることは難しいだろう。
トランプ氏は、すべての国からの輸入品に10%の関税を課すことや、日本製鉄による米USスチール買収を阻止すると公言しているが、それ以外にも在日米軍駐留経費の負担増を日本に要求し続けている。この経費負担に関する合意は26年に更新される予定だ。
米ブルッキングス研究所のミレヤ・ソリース上級研究員は、「連立政権や少数与党では防衛費負担に関する協議を行うだけの政治力がないかもしれない」と指摘。「そうした交渉はより困難になる可能性がある」と語った。
与党過半数割れ
1990年代から2000年代初頭にかけて、日本は首相が次々と代わる「回転ドア」として知られていた。しかし、12年から20年にかけての安倍氏の2度目の首相在任期間で、より安定した政府と国際舞台での自信に満ちた存在へ転換し、その流れは岸田文雄前首相によってさらに拡大した。
安定した政治の下、特に安倍氏はトランプ氏と個人的な関係を深め、両首脳の会談は数十回に及んだ。トランプ氏は貿易で日本に圧力をかけ続けると公言しているが、選挙遊説では現在も22年に銃撃された安倍氏との友情にたびたび触れている。
ジャパン・フォーサイトの創設者、トビアス・ハリス氏は顧客向けのメモで、「石破氏や後継首相が、例えば次期米大統領、あるいは中国や韓国の政府と個人的な信頼関係に基づく外交に真剣にかかわることを期待するのは難しいかもしれない」との見方を示した。
ただ、日米関係に大きな変化が起こる可能性は低い。日本の主流派政党は全て日米同盟を支持している。一部の政党は石破氏のように、協定を一部見直し、同盟関係を両国にとって公平なものにすることを望んでいる。
エマニュエル駐日米大使は、「今回の総選挙は日米同盟に関する国民投票ではない。同盟は選挙前と同様に今も強固で確固としたものだ」と指摘。「実際、日米の協力関係深化がインド太平洋地域およびその他地域の安全保障と集団的抑止力にとって極めて重要であるということは、日本の政治のコンセンサスであることは明らかだ」と述べた。
疑問点の一つは、日本が第二次世界大戦以降で最大規模の防衛費増額をどのように捻出するのかということだ。岸田氏は22年に防衛費を5年間で60%増やすと表明したが、これにより日本の防衛費は世界でも有数の規模となる。
石破氏は防衛増税の開始時期について、年末の税制改正議論で決着させる必要があるとの認識を示しているが、少数与党の弱体化した政権を維持するにはその目標を犠牲にせざるを得ないかもしれない。
笹川平和財団安全保障研究グループ特任グループ長の山本勝也氏は、次期政権の枠組みはまだ分からないが、「防衛増税にゴーを出すのは非常に難しい」と指摘。「こういう政治的な不安定さが出てくると、どうしても外から見たときにリーダーが弱くなってしまったという印象は与えてしまうので、そこは懸念している」と述べた。
原題:Japan Risks Turning Inward Just as World Braces for Trump Return(抜粋)