米大統領選挙は共和党のトランプ前大統領の大勝利で幕を閉じた。それだけではない。共和党はすでに上両で過半数を制した。下院も現時点ではリードしている。ひょっとするとトリプルレッドが実現するかもしれない。開票速報を見ながらトランプ氏の勝因は何か考えた。専門家の話も聞いた。物価高や移民問題、1期目の自画自賛などさまざまな要因が複合的に作用した結果だろう。だが、移民問題の深刻さを強調するあまりに、オハイオ州スプリングフィールドでは「ハイチからの移民が犬や猫を食っている」と発言した時には、誰もがこの人の“暴言”の激しさにうんざりしたことだろう。そのトランプ氏がこの州でカマラ・ハリス氏を大差で破ったのである。J・D・ヴァンス副大統領候補の出身地でもあるオハイオ州の民意は何を示しているのか。大統領候補としてのハリス氏の資質に問題があったと言ってしまえばそれまでだが、トランプ勝利の裏で何かが変わろうとしている気がするのだ。

ロイターは勝因について以下のようなことを指摘している。①有権者が物価上昇に不満を抱いていた②不法移民による犯罪が増えている③根拠のない主張で不安をあおったーなど。③は犬、猫の話だろう。とはいえ、そんな単純なことではなさそうだ。出口調査などをもとにロイターは、大統領選の投票行動にある種の変化が起こったと分析している。その要点を挙げればトランプ氏は①郊外や地方に加えて、歴史的に民主党が強い一部の大都市にも支持を広げた②高所得と低所得の地域、失業率が比較的高い地域と記録的な低水準の地域でも支持率を伸ばした③伝統的に民主党の支持基盤であるヒスパニック系からも支持を集めた④経済が最重要課題だと答えた人のうち79%がトランプ氏に投票した⑤約45%が家計の状況が4年前よりも悪化していると答え、このうち80%がトランプ氏を支持したーなど。要するに有権者の属性や貧富の違いに関係なく、あらゆる階層で得票を伸ばしたのだ。

共和党といえば富裕層に強いが、今回の投票結果はこうしたイメージにそぐわない。トランプ氏は複数の問題で起訴され一部有罪判決まで受けている。その人に対する支持が民主党の基盤を侵食し、黒人やヒスパニック系にまで広がっている。マスク氏に代表される大金持ちが熱烈に支持するのはよく分かる。低所得層や黒人、ヒスパニック系まで支持層が広がっているのはどうしてだろう。彼らの期待はなに。不法移民の強制排除、MAGA。民主党を支持するロイター(米国のメディアはほとんどが民主党支持だ)は、「トランプ氏の勝利は、米国の貿易や気候変動政策、ウクライナ戦争、税制、移民問題などに大きな影響を及ぼす見込み」だと警鐘を鳴らす。ロイターの見解に同意するわけではないが、トランプ氏の勝因は時代の大きな流れに逆らっているところにあるような気がする。気候変動よりも「戦争を止める」(勝利宣言)との主張が有権者に刺さったのではないか。詳細な勝因分析が必要だ。