103万円の壁をめぐる攻防は連日メディアを賑わしている。この欄でも何回か個人的な見解を書いてきた。党税調にはインナーがあり、ここで税制のすべてを取り仕切っていること。税と社会保障を合わせた国民負担率が50%近くに迫っていること。この間、政府・与党は非課税枠の調整を怠ってきたことなど。きのうYouTubeをみていてもっとひどい現実が明らかになった。情報源は財務省出身の経済学者・高橋洋一氏とジャーナリストの須田慎一郎氏。その印象を素直に今日のコラムのタイトルにした。財務省位出身の宮沢氏、広島県の参議院議員。宮沢喜一元首相は叔父。岸田前首相とは従兄弟関係にある。岸田家と広島県を二分する政治家の家系に育っている。世襲議員の1人でもある。まずは103万円。内訳は給与所得控除が55万円、基礎控除が48万。国民民主はただ単に103万円を178万円に引き上げろと要求している。

所得控除には年収が増えるに従って控除額が逓減する仕組みがある。税制というのは細かいところまで検討すると極めて複雑。高橋氏によると「財務省の中でも税法の改正案を書ける役人は少ない」のだそうだ。主計局出身の玉木国民民主代表も「書けないだろう」とのこと。税の専門家は控除額を引き上げる場合、所得控除を一括して引き上げるのだそうだ。政府が回答した123万円への引き上げは、現実的には所得控除の55万円を75万円に20万円引き上げる。75万円+48万円で123万円。この数字は178万円から55万円を引いた数字とも重なる。税の詳細に通じた宮沢氏の数字遊びでもある。高橋氏によると宮沢氏は、「税制の細目を知らない国民民主党ならびに玉木氏をバカにし、オチョクッタ回答」と推測する。3党幹事長合意に「釈然としない」と憤慨した宮沢氏である。玉木氏に仕返しをしたのだろう。高橋氏は「国民は所得控除を123万円に引き上げるのですね。了解といって席を立てばよかった」と振り返る。控除額は123万円+48円で171万円になる。要求額に近い。

宮沢氏の本音は推測するに「税制を決めるのは俺だ」ということだろう。国民の生活など歯牙にもかけていない。政治評論家の田崎史郎氏は「党内には彼を称して“音痴”との声がある」と紹介する。要するにKY(空気を読めない)なのだ。田崎氏も時にはいいことを言う。さらに驚くべきことをジャーナリストの須田慎一郎氏が打ち明ける。自民党には社会保障制度調査会という組織がある。ここにもインナーがある。それが年金委員会だ。その委員長がなんと宮沢洋一氏なのだ。数人のメンバーが年金の諸問題を実質的に決めている。失われた30年間、税金の控除額は据え置かれ、社会保障負担は目立たないように少しずつ引き上げられてきた。宮沢氏が税調会長に就任したのは2015年。失われた30年のすべとは言わないが、少なくとも約10年間は国民を苦しめてきたことになる。K Yの人だ。責任なぞ微塵も感じていないだろう。玉木氏がよく言う“ブラケットクリープ”くらいは理解すべきだ。

※ブラケットクリープとは、インフレ局面で発生する、実質的な増税である(Wikipediaより)