国民民主党が提起した「103万円の壁」問題は、政府が推進する経済政策の盲点をみごとに抉り出した。何を言いたいかというと政府の経済政策そのものが、デフレ脱却の道を塞いでいるということだ。言葉を変えて言えば、「リスクを取らない政府の経済運営が、日本経済再生のリスクになっている」。どうして政府はリスクを取れないのか?政界の奥深くに潜在している影の政府、いわゆるD S(Deep State)の総元締めである財務省の基本戦略に政府も自民党も、中央と地方の官僚たちも、もっと言えば学者やエコノミスト、主要メディアなど御用の者たちが“洗脳”されているからだ。デフレとは供給能力に比べて需要が下回っている状態を指す。どうして需要が伸びないのか?少子化だけが原因ではない。最大の需要者である国民の懐が貧しくなっているからだ。賃上げをいくらしても物価に追いつかない。円安で消費税の税収は増えるが、国民は財布の紐を閉める意外に防衛策がない。

それだけではない。社会保障の負担が重くのしかかっている。少子化がとめどなく進んでいるから仕方ない、と国民の多くは諦めている。だが、その一方で年金の余資を運用しているG P I F(年金積立金管理運用独立行政法人)の含み益は100兆円を優に超えている。税収と含み益は増えるが、肝心要の国民はひもじい思いに耐えている。何かおかしくないか、この国は。ちなみに2024年度と30年前の1994年度の予算の伸び率を計算してみた。一般歳出の伸び率は30年前に比べると53%増えている。税収総額は同36.5%増だ。この差はおそらく赤字国債で埋めたのだろう。税収の内訳を見て驚いた。消費税の税収は1994年度が5兆6000億円、2024年度(見込み額)は23兆8000億円となっている。30年前の4.25倍だ。この30年間国民は生活苦に耐えながら、コツコツと国に貢いできたことになる。これではたまらんと国民民主党が声を上げた。所得税の税額控除の引き上げだ。

この30年間、最低賃金(全国平均)は1.73倍に伸びている。最低賃金は労使で構成する最低賃金審議会が、時々の経済情勢を勘案しながら決めている。要は財務省が勝手に決められない金額ということだ。この間、税額控除の引き上げはなし。103万円を1.73倍すると178万円になる。遅きに失した引き上げ要求に過ぎない。これに対する自民党の反応は宮沢税調会長、小野寺政調会長の2人が象徴している。取り過ぎた税収を国民に返したくないのだ。どうしてそんなことを言うのだろう?「財政再建が教義」(森永卓郎氏)という“ザイム真理教”に取り込まれているからだ。例えは悪いがトランプ次期大統領は、減税の継続と法人税の更なる引き下げを公約している。人気取り政策との批判もあるが、物価の更なる上昇という危険を犯しながら減税というリスクを選択している。日本の為政者は国民を犠牲にして、財政再建と経済再生の二兎を追っている。両睨みのリスク。減税で経済を再生し、これを財政再建につなげる。このリスクを回避していることが日本にとって最大のリスクだ。