トランプ次期大統領が20日の就任式を前に吠えまくっている。これに歩調を合わせるかのように、側近のイーロン・マスク氏も英国やドイツの政局にちょっかいを出している。こちらはどんな狙いがあるのか。ロイターは「西洋文明そのものが脅かされている」との見解に基づいていると報じている。トランプ・ディールの特徴は最初に強烈なパンチを見舞うこと。とんでもないことを言って相手を驚かせる。それから本格的な交渉が始まる。当初は「軍事力も辞さない」と強圧的だが、交渉が本格化するとぐの字も言わなくなる。こうして交渉がすんなりと進展する、そんな狙いでは、ど素人の勝手な推測。パナマ運河もグリーンランド買収も、最初聞いた時には「とんでもない」と感じた。だが、地球儀を真上から見れば安全保障上「なるほど」と思える。逆にトランプ氏らしい発言で、どう決着するか気になってくる。

一方、政府効率化省(DOGE)の共同トップに就任したマスク氏。ここにきて英国やドイツにちょっかいを出し、両国の極右政党支持を鮮明にしている。最初に狙われたのが英国で、労働党のスターマー首相批判で口火を切った。ロイターは今日、マスク氏がドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のワイデル共同党首と対談を行い、2月の総選挙では同党に投票するようドイツ国民に呼びかけた、と報道している。マスク氏はもともと民主党支持者。資産が増えるに従って右傾化したようで、昨年の大統領選挙を機に完全に保守系支持者に変身した。英国とドイツでは極右政党への投票を両国民に呼びかけているというから、単なる思いつきではないのだろう。その一方でGODEの共同トップとしてぶち上げた「2兆ドル」の予算削減計画はあっさりと撤回、「2兆ドルを目指せば、1兆ドルを達成する可能性は十分にある」と公約を後退させた。まるで政治家のような発言だ。

撤回といえばトランプ氏もウクライナ戦争の公約をいとも簡単に撤回した。大統領選挙では「就任初日に(停戦は)可能」と主張していた。ブルームバーグによると同氏は7日、記者会見の中で「6カ月かかる可能性がある」とこれまでの発言を後退させた。簡単に公約を撤回する一方で、威圧外交は逆に盛んになっている。関税の引き上げに向け、「非常事態宣言の発令」が検討されているという。同宣言下では大統領権限が強化される。これを使ってスムーズに関税を引き上げるのが狙いだという。パナマが運河の引き渡しを拒否すれば関税で締め付ける。デンマークにはグリーンランドをめぐって口撃で威圧する。いずれも軍事に代わる強権策だ。見方を変えればプーチンや習近平総書記と瓜二つ。違うのは公約を融通無碍に撤回する変わり身の速さか。いずれにしても常識の範囲内で権力を争っている西側の指導者は「予測不可能性」に振り回されることになる。