トランプ次期大統領の就任式を20日に控え、閣僚の承認公聴会が始まった。新政権の閣僚は反中国派でトランプ氏に忠誠を誓う人が多い。そんな中で注目されるひとりが財務長官に指名されたスコット・ベッセント氏だ。米国の一般市民をはじめ政界でも、この人のことを知っている人は少ないようだ。ブルームバーグによると今月はじめトランプ氏は、マールアラーゴで開いたレセプションで同氏を紹介した。その時の発言は次のようなものだった。「スコット・ベッセント氏を知っているか」とゲストに問い掛けた上で、「誰もこの人物について聞いたことがない」と語っている。誰も知らないがベッセット氏は共和党の熱烈な信奉者にも、ウォール街の米国を代表する経済界のお歴々にも評判がいいという。それを証明するかのように公聴会ではF R Bの独立性維持とトランプ減税の継続、財政の健全化など持論を展開した。話題のU Sスチールについては「CFIUSに差し戻されたら審査する」と述べている。
ベッセット氏の特徴は左派にも右派にもぶれないバランス感覚かもしれない。だが、国内の市場関係者の多くは、トランプ政権が推進するアメリカ・ファーストはインフレの加速を煽り、財政危機を招くと懸念する。ブルームバーグ(Bb)は「海外でも世界の準備通貨としてのドルの地位が、トランプ氏の気まぐれに左右されないか、米国以外の国々で疑問を投げ掛ける声が上がる」と心配する。アメリカ・メディアの大半は反トランプだ。ブルームバーグも例外ではない。1期目の時からトランプ氏には批判的だ。そんな中で開かれた上院財政委員会の指名承認公聴会。Bbによるとベッセント氏はまず、「2017年の大型減税が延長されなければ、経済危機に直面する」と警告した。「これは最も重要な経済問題であり、成否の分かれ目だ」と指摘。「経済的惨事が起きれば、中間層を直撃する」と主張した。一人勝ちともいうべき好調な経済の中で、減税継続を声高に主張する財務長官候補がいる米国。それだけでも、どこかの国に比べたら“健全”な気がする。
財政危機に関して「連邦政府が債務不履行に陥ることはない」と断固とした口調で強調する。そして国内の裁量的支出を調整することで「財政の健全化に取り組まなければならない」と述べ、財政赤字への対応が重要だとの考えを示している。金融政策については「FOMCの独立性を尊重する」と発言。ウクライナでの戦争を終わらせるため、「ロシアの石油業界への制裁強化を支持する」とし、「輸出を増やして深刻な景気下降から脱しようとしていると中国を痛烈に批判した」。政治的には強硬派の顔色をのぞかせるが、経済運営はウォール街のお歴々が評価するように常識的にみえる。トランプ政権は「予測困難」との見方が一般的になっている。公聴会におけるベッセント氏の発言を見る限り、トランプ氏ほどラジカルには見えない。政権内部の意見対立を調整しながら、ゆるやかにMAGA実現を目指すのではないか。この人は次期政権の安定に寄与するのでは、そんな気がした。