就任初日から大量の大統領令に署名、ロケットスタートを切ったトランプ氏。大統領令の中身を把握するだけでかなりの時間が必要になる。パリ協定からの離脱には、親密団体である石油業界から異議が出るなど、一部には猛烈な抗議を受けそうなものもある。そんな中で個人的にちょっと気になったのが「DEI」を否定する大統領令だ。DEI(ディー・イー・アイ)は、Diversity(ダイバーシティ)、Equity(エクイティ)、Inclusion(インクルージョン)の頭文字をとった言葉。日本語に訳せば多様性、公平性、包括性となる。Wikipediaはその意味を以下のように説明する。Diversityは人間としての多様性。ジェンダー、民族性、性的指向、障害、年齢、文化、社会階級、宗教、意見などが含まれる。LGBTも多様性の一つだ。Equityは公平性とか正義を意味している。同一労働・同一賃金などはまさにこの理念に沿った施策と言っていいだろ。賃金格差の拡大や貧富の差はEquityに反している。

Inclusion。包括性とか包摂性と訳されるが、Wikipediaは「帰属意識と一体感という意味」と説明している。「すべての従業員が自分の声を聞いてもらえていると感じる経験を生み出す組織文化を構築することを意味する」とある。Googleは「社会において多様な人材が尊重されながら共存していくという意味」と捉える。こちらの方がわかりやすい。要は多様な個性を生かしているかどうか、さまざまな組織に求められる要素ということだ。企業だけではない公益性の高い組織、政府、行政機関などすべとの組織が対象になる。DEIは人類共通の価値観、あるは目指すべき未来像と言ってもいいだろう。ある種の理想論かもしれないが、そうした価値観を徹底的に排除するというのがトランプ氏の基本理念でもある。ブルンバーグによるとトランプ氏が就任初日にDEI排除を命ずる大統領令に署名したことによって、担当する連邦政府の職員は22日から有給休暇に入ったという。仕事がなくなったのだから、職場に行ってもやることがない。有給休暇はいつまで続くのだろうか。

トランプ氏はLGBTにも否定的だ。トランスジェンダーを自認する男性が、女性として公立学校のスポーツ大会に参加することも禁止した。保守的な価値観に反するのだろう。人類の性別を女性と男性に限るとしたこともその一環だ。民主党政権が弱者に対する優遇策を過度に推進したことに対する反動かもしれない。DEIも行き過ぎれば人類共通の価値観という正当性を失う危険性はある。「過ぎたるは及ばざるがごとし」だ。とはいえ、人類に限らず地球上に生息している動植物、生きとし生けるものはすべて多様性と公平性を守っている。生き残るために食うか食われるか、厳しい生存競争はある。だが多様性と公平性はしっかりと守られている。多様性があるからこそ地球は共存共栄しながら存続しているのかもしれない。トランプ政権は評価できる施策もいっぱいあるが、これはと思う政策も数多い。地球儀を俯瞰する安全保障政策も否定しないが、動物や植物までInclusionした政策を打ち出してもらいたいものだ。