八潮市の下水道破損に伴う道路の陥没事故は、発生から10日目を迎えた。にもかかわらず依然として巻き込まれたトラック運転手の救出はおろか、そのメドすら立っていない。破損した広域下水道の利用者はメディアの報道によると120万人に上るという。県や地方自治体の要請により風呂、洗濯、トイレ、炊事、掃除など日常生活に不可欠な生活用水の自主的節水を求められている。日本は世界に冠たる上下水道大国である。そう思っていた。その日本でどうしてこんな事故が起こるのだろう。ずっと不思議な気がしていた。そんな折、財務省出身の経済評論家、高橋洋一氏のYouTubeを見た。公共投資の予算計上の際に使用される社会的割引率(以下割引率)が4%に設定されているのが遠因と強調する。以下、高橋氏の解説に耳を傾けよう。

公共投資の予算計上に使われる指標がいくつかある。代表的なのは「ビーバイシー1以上」だ。「B/C>1」と表記した方が分かりやすい。Bはbefit、Cはcostだ。要するに費用対効果が1以上ということだ。わかりやすく言えば公共投資によってコストを上回る利益が上がるかどうか、予算計上を判断する重要な要素になっている。もう一つ重要な要素がある。ビーバイシーを計算する際に使われる割引率だ。現在は4%に設定されている。20年以上変わっていないらしい。コストを計算する際に使われる金利は法律に規定があるわけではない。国交省と財務省の幹部が勝手に決めている。割引率は将来的な収益を考えるときに使う金利で、政府内部で取り決めている。日銀が1月の金融政策決定会合で決めた政策金利は0.25%~0.50%だ。市中金利よりは若干低いが、4%といえばこの8倍。天を仰ぐような水準だ。

コスト計算にこの割引率を使うわけだからビーバイシーは当然低くなる。かくして公共投資は抑制される。40年から50年といわれる耐用年数が過ぎた下水道管も放置される。八潮の事故は自然災害ではない。人災なのだ。割引率を市中金利より高めに設定することで、財政健全化は少しずつだが着実に進んでいる。その裏でトラック運転手のように事故に巻き込まれる人があとを絶たない。人の命よりも財政健全化が優先されているのだ。高橋氏は「国交省の担当者は嘘つきだが次官になり、いま石破政権で重要なポストにいる」とぶちまける。割引率の見直しを「やるやる」と言って、やらなかったということのようだ。日本の行政は財務省と各省幹部の結託によって成り立っている。岸田・石破政権はその上に乗っているだけ。103万円の壁が動かないように、下水道も橋も道路も財政健全化の犠牲になるだろう。それでも自民党は動こうとしない。自民党の終焉が近づいている。