大統領就任後にみせたトランプ大統領の猛烈な仕事ぶりは、私のような怠け者から見ると想像を絶する印象がある。相次ぐ関税の発動やウクライナ戦争の終結模索、ガザを「中東のリビエラにする」と発言して世界中の顰蹙をかったりしている。そんな中でトランプ改革を象徴しているのは「USAID(United States Agency for International Development)」の解体的見直し論ではないか。正直言ってこんな組織があることも知らなかった。BBCによると米国は2023年度に、680億ドル(約10兆円)を世界中の弱者に対する援助や支援に使っているという。このうちの半分強にあたる400億ドルがUSAIDに配分されている。ガザの難民支援やウクライナ人の生活や軍事物資の支援、アフリカの難民に対する食糧支援、ポリオワクチンをはじめ貧しい国々に対する医薬品の提供など活動範囲は広範囲及ぶ。豊かで恵まれた国、Great USAを象徴する組織といってもいいだろう。
その組織の解体を主張しているのがイーロン・マスク氏だ。DOGE(政府効率化省)を率いて、この組織を政府予算の大幅削減の標的にしている。就任初日にトランプ大統領はすでに海外支援・援助を90日間凍結する大統領令に署名している。これを受けてUSAIDの職員が解雇され、世界中で難民や貧困家庭の救済・支援が停止している。あちらこちらで頻発している戦争とは別に、ある意味で世界中が大混乱に陥っているようだ。なぜトランプ政権はUSAIDを目の敵にするのか。BBCによるとトランプ氏はこの組織を、「アメリカの納税者にとって相応の価値が伴っていないと考えていも」と指摘する。「(USAIDの)上級職員を『急進的な狂人』と呼んでいる」とも。トランプ氏は政府として「DEI」(Diversity、Equity、Inclusionの頭文字)の使用を禁止する大統領令にも署名している。USAIDの背後にDEIという考え方があると考えているのだろう。
DEIは民主党、とりわけ急進左派が愛用する概念でもある。これに対してトランプ氏はどちらかというと急進右派に属する政治家だ。DEIの使用禁止並びにUSAIDの解体はトランプ氏による急進左派潰しを意味しているのかもしれない。本来民主党支持者だったマスク氏が、どうして急進右派のトランプ氏に急接近したのか、その理由は知らない。だが、急進左派攻撃ではいまや完全にトランプ氏と歩調を合わせている。ポリティカル・コレクトネスという言葉がある。人種や性別、宗教、障がいの有無などによる差別や偏見をなくすことを意味する。BLM((Black Lives Matter)やLGBTQ(Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender、Queer or Questioning)など少数者保護もこの一環と見ていい。左派に属する一部政治家が過剰なほどこの考え方に固執したため、保守派の過剰な反発を誘発した。USAID解体は左右両派の「過剰」が招いた結果ではないのか・・・。何ごとも行き過ぎると結果は良くない。