▽「経営陣の総入れ替えが必要」 ホンダ・日産経営統合撤回で有識者から厳しい意見相次ぐ<産経ニュース>2025/2/13 21:48

ホンダと日産自動車は13日、経営統合に向けた合意の撤回を正式に発表した。対等な統合を求める日産と企業規模で勝るホンダの溝は埋まらず、折り合えなかった。自動車業界に詳しい有識者らからは日産に対し「経営陣の総入れ替えが必要」「社外取締役が機能していない」などと厳しい発言が相次いだ

ジャーナリストの井上久男氏
ジャーナリストの井上久男氏

ジャーナリスト・井上久男氏の話

日産の危機感のなさの背景には、自分たちは名門の大企業で何かあれば、政府が助けてくれるというおごりがあるのかもしれない。日産は下請けが多く、倒産すれば、地方経済への影響も大きい。景気が後退する恐れもある。

内田社長はホンダと組まないと生き残れないとみていたと思うが、反対する役員を抑えきれずに破談になったのではないか。経営トップのガバナンス(統治)能力のなさが浮き彫りとなった。

日産の中堅幹部に話を聞くと、内田氏は決断力がないという見方をしている人が多い。下からの信任も失っており、内田氏がトップでは自力再建どころか、空中分解してしまう恐れもある。いずれにしろ、経営不振の要因を作った経営陣は総入れ替えが必要になると思う。

東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストの話

東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリスト
東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリスト

昨年12月23日の共同記者会見で2026年8月に持ち株会社を設立すると時期まで公表したが、話を詰めていなかったのは、両社に問題がある。

ただ、それ以上に日産経営陣の危機感のなさが目立つ。昨年11月にグローバルの生産能力の2割削減や9千人の人員削減を発表したが、社内をまとめきれていないのか、具体策を示すのが遅く、スピード感がないという印象だ。

ハイブリッド車(HV)の投入が遅れた北米事業や中国の販売減は明らかに失策で計画が甘く、内田社長の説明も首をかしげることが多い。1月1日付の人事も業績不振の戦犯ともいえる役員をたらい回しにしており、社外取締役が機能していないように映る。

内田氏の後継者の顔も見えておらず、社外取締役の責任は重い。(黄金崎元)

ホンダと日産、経営統合協議の打ち切り正式決定
2024年度の純損益を800億円の赤字に下方修
焦点は経営陣刷新 次の合従連衡の幕開け

▽「プライド高い日産、危機感足りぬ」 田中道昭・立教大教授ー日産、ホンダとの統合協議打ち切り 識者の見方<日経web版>2025年2月12日 5:00 

立教大の田中道昭教授

日産自動車ホンダとの経営統合の協議を打ち切る。巨大再編を描いた両社は今後どのような戦略を描いていくべきか。経営戦略に詳しい立教大の田中道昭教授に聞いた。

――統合協議が打ち切りの見通しになったことについて、両社の交渉をどうみていますか。

「協議開始の時点から両社の認識のずれは明らかだった。時価総額で5倍の差があるにもかかわらず、日産側はホンダとの対等な関係にこだわりすぎていた。日産のプライドが高すぎたために統合協議は折り合いがつかなくなった」

「協議が打ち切りになった責任はホンダ側にもある。当初は(持ち株会社による)経営統合だったにもかかわらず、子会社化の提案を急にしたのは重大な条件変更にあたる。日産とのずれが大きくなり、ホンダは協議が破談になっても構わないという覚悟のもとで子会社化提案をしたのではないか」

――ホンダは日産の示したリストラ策が踏み込み不足と考えていました。

「ホンダが思っているとおり、日産は危機感が決定的に足りていないと思う。日産は1999年に仏ルノーの傘下に入る前にも経営危機に陥った。現状は当時より深刻だ。競争力の根幹であるブランド力が傷ついているからだ」

「主力の北米で商品力が低下し、インセンティブ(販売奨励金)を積み増した結果、『安いから買う』程度の車になった。一度毀損したブランドを回復させるのは容易ではない」

――日産の再建は今後どう進むと思いますか。

「単独での生き残りは将来的に難しい。だが、ホンダとの協議が打ち切りとなった今、日産に魅力を感じる自動車メーカーはない。車づくりのノウハウそのものに関心がある台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業などの異業種と連携する以外に選択肢は残されていないだろう」

「日産の経営陣は当事者意識に欠けている。典型的な『大企業病』にかかっている」

――協議開始からわずか1カ月余りでの物別れです。経営陣の責任をどう考えますか。

「自動車業界の競争環境が大きく変わる中で、ホンダは日産との経営統合や子会社化提案などの手を打とうとした。責任をより問われるのは提案を断った日産の方だ。経営陣は事業再生に向けた次の一手を早急に打ち出す責任がある」

(聞き手は北川裕猛)

たなか・みちあき 立教大ビジネススクール教授。シカゴ大経営学修士(MBA)。日米欧の金融機関に勤務後、2015年から現職。山梨県出身、60歳。

【日産、ホンダとの統合協議打ち切り 識者の見方】

「ホンダ・日産、けんか別れで終わるな」 中西孝樹氏

「ホンダが鴻海と組むのも手」 伊藤忠総研の深尾氏

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▽統合破談でも「1社では難しい」 ホンダと日産が進む先にある可能性<ロイター日本語版>2025年2月13日 21時40分