先週末、ドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議が氷のように凍てついた。J Dバンス副大統領がスピーチで「欧州の指導者らが民主主義の価値観を損ねている」と強烈に非難したからだ。非難というよりは「吠えた」と言った方がいいかもしれない。声を荒げたわけではない。冷静に淡々と事実を述べたのだ。会場は凍りついたように静まり返った。拍手もなければヤジもない。多くの出席者が下を向いているように見えた。ブルームバーグによるとエストニアのツァフクナ外相は「(NATOの)存亡に関わる問題だ」と、インタビューに答えて述べている。マクロン大統領は早速欧州首脳会議を招集した。トランプ政権はどうやらEUの首脳陣をまったく相手にしていないようだ。米政府高官は「ウクライナを巡る話し合いでは米国と中国が2大国だと考えている」と欧州の一部の参加者に語ったという。これまでは西側の結束を確認するセレモニーに過ぎなかったミュンヘン安全保障会議。一体そこで何が起こったのか?

ドイツのピストリウス国防相は副大統領のスピーチについて、「ドイツだけでなく欧州全体の民主主義を疑問視した」と強く反発した。ドイツはいま総選挙の真っ只中にある。バンス氏が極右政党のAfD支持を表明したこともあって、ドイツ政府報道官は「友好国も含め、外国人が選挙期間中にこれほど激しく選挙運動に介入するのは適切ではない」と非難した。参加者全員が鼻しらむような表情を見せた中でトランプ氏は「演説は好意的に受け止められた」と、平然とした表情でバンス氏のスピーチを絶賛する。トランプ政権の誕生によって何かが大きく変わろうとしている。それがなんだかよく分からない。ゼレンスキー大統領は語る。戦争終結計画についてトランプ氏と話し合った際に「トランプ氏は一度も、協議のテーブルに欧州が必要だとは言わなかった」と。「これは多くのことを物語っている。常にそうしてきたからというだけの理由で米国が欧州を支える時代は終わったのだ」と。

いやはや事態は深刻だ。欧州もNATOも米国を頼り切ってきたのだ。「困った時は米国が助けてくれる」、これが欧州首脳陣の心の奥底に宿っている深層心理ではないか。そのくせ、関税反対、欧州抜きの和平会議は認めない。あれやこれや言いたいことは言う。防衛費も低く抑えてきた。トランプ氏の本音は「ウクライナを自分たちだけで守ってみろ」。西側陣営の指導者に宿る対米盲従主義。日本人だからこんなことを考えてしまうのかもしれない。石破首相はU Sスチール買収問題に絡んで「買収ではなく投資だ」と強調した。なんという馬鹿なことを。業績不振で倒れゆくU Sスチールに投資する?日鉄の役員会がこれを実行すれば、取締役の善管注意義務違反で株主代表訴訟が提起されるだろう。日米同盟を背景にすれば「買収がU Sスチール再生の特効薬だ」と、どうして言えないのか。ここにもなにも考えない手のひら返しの対米盲従主義者がいる。