あれはいつ頃の話だったのだろうか。老後に必要な預貯金は最低でも「2000万円」と言う試算があった。これが当時、社会的な大問題となった。個人的にいまその真っ只中にいて、老後は長いと実感している。老後に必要な蓄えなど普段まったく考えないのだが、たまたまみたPRESIDENT Onlineに経済ジャーナリストの荻原博子氏の原稿が掲載されていた。タイトルは「4000万円でも2000万円でもない…荻原博子が『年金と別にこれだけあれば完璧』という死ぬまでに必要な金額」。その金額は「夫婦で1500万円」と書いてある。問題となった2000万円を大きく下回っている。理由は簡単。「住宅ローンなどの負債を返済し終えて、子どもの教育費もなくなり、現役時代のような高い税金や社会保険料を払わなくてもよくなって、あとは自分たちが食べていくだけなら、年金の範囲内でそこそこ暮らしていけるでしょう」。ひとそれぞれだが、とりあえず1500万円の預貯金があれば老後は安心のようだ。

「『介護費』は1人約600万円、『医療費』は2人で200万円ほど用意しておけばいいでしょう。これは世間一般の平均額でもあります。つまり、夫婦で合計1400万円くらいの貯金があれば安心。少し多めに1500万円を『イザという時』のために現金で銀行に預けておけば完璧です」とある。この数字を見て安心できる人は、すでに幸せな老後を経験している人たちだ。野村総研が13日に公表した富裕層の金融資産を推計した資料(2023年分)がある。その中に「純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数」という図表がある。超富裕層の平均金融資産は11億円を超えている。最下層の3000万円未満を「マス層」と定義しているのだが、この層が保有する金融資産の合計は711兆円。これを4,425万世帯で割ると一世帯あたりの平均保有額は1606万円となる。荻原氏が指摘する1500万円を少し上回っている。これを見ると預貯金と金融資産の違いはあるが、大半の日本人の老後は心配なさそうだ。

本当にそうだろうか。昨今話題の高額療養費の個人負担上限額引き上げ。このニュースを見ると荻原氏が太鼓判を押す医療費、「2人分で200万円ほど用意しておけばいいでしょう」、本当にそれで大丈夫と言いたくなる。個人負担分の引き上げは今年8月からだが、これで終わるわけではない。来年の8月から年収区分を細かくした上でさらに引き上げる予定。この分は2026年と27年に分けて実施される予定だ。政府はがん患者などの強い抗議を受けて、現在治療中の患者は現行のまま据え置くことを決めた。だが、将来的に罹患する患者がその恩恵を受けられるわけではない。おそらく上がるのは高額医療費だけではないだろう。薬不足を解消するためには医薬品の値上げも必要になる。生鮮食品をはじめ物価も上がる。現役世代は賃金も上がるが、年金生活者が受け取る年金の増額は雀の涙。大半の日本人にとって老後の不安は永遠に続きそうな気がする。