拉致被害者家族会の最高齢者だった有本明弘さんが15日に亡くなった。96歳だった。これで被害者の親世代で残っているのは横田めぐみさん=拉致当時(13)=の母早紀江さん(89)のみとなった。時間は差し迫っている。にもかかわらず、なす術のない日本政府。このニュースを目にする度に感じるのは被害者ならびに両親、兄弟姉妹、親族など関係者の皆さんの怒りや無念さ、腹立たしさだ。石破首相は家族会の皆さんと20日に官邸で面会している。その際に先のトランプ大統領との首脳会談の中身を報告した。「トランプ大統領から解決に向けた全面的な支持を得た」(引用はNHK、以下同じ)と。その上で「あらゆる可能性を模索し、すべての被害者の帰国実現に全力を挙げる」(同)と約束した。誠実さのかけらもない約束だ。総理の言葉を信じる人は皆無だろう。なぜなら歴代総理もほぼ同じことを言っていた。だが誰も何もしなかったし、できなかった。これが日本の現実だ。
総理の説明はさらに続く。「拉致問題は単なる誘拐事件ではなく国家主権の侵害だと強く思っており、政府としてあらゆる可能性を模索していかなければならない。何としても解決するため力を尽くしていく」。歴代総理と全く同じだ。こう言えば許されるのか。そうじゃないことは石破総理も分かっている。だけどこう言うしかない。堂々巡りだ。家族会の代表を務める横田拓也さんは怒りを込める。「なぜ国家は被害者を取り戻すために何もしようとしないのか。もうこれ以上苦しめないでほしい。速やかに日朝首脳会談を行い、日本で家族との再会が実現できるようにしてもらいたい」。当然の要求だ。石破総理は横田さんの発言に答えるべきだ。総理は親中派と目されている。習近平主席に「金正恩氏との首脳会談をセットしてもらいたい」、真正面から申し入れればいいではないか。断られたとしても日本政府の“思い”を世界に発信することができる。何もしないよりははるかにましだ。
現実はトランプ大統領に頼むしか手はない。NHKによると総理は以下のような説明をしている。「先の日米首脳会談でトランプ大統領からかつて面会した被害者の家族の近況を問われ、解決に向けた全面的な支持を得た」と。NHKも「近況を問われた」あとに、なんと説明したかぐらいは書くべきだろう。報道機関に八つ当たりしても仕方がないが、「全面的な支持の中身は何か」、家族会には説明すべきだ。問題解決に向けて日本は軍事的な力を使うことができない。非軍事的な模索をするしかない。だいたい日本政府には問題解決に向けた計画はあるのだろうか。ないような気がする。計画に沿った一貫性などどこを探しても見当たらない。まず拉致被害者の救済計画を策定すべきではないか。それに沿って強力な外交を展開する。もちろん水面下で展開している“隠密裏”の模索も必要だ。それはそれ。表で強力な外交を展開すれば国民も協力しやすくなる。何度も言うが、何もしないよりはるかにましだ。