トルコが大混乱に陥っている。Bloombergは「週末にエルドアン大統領の政敵を逮捕・収監した際、数千人の市民が街頭に繰り出し抗議の声を上げた。対照的に静かだったのは、トルコの西側の同盟国だ」と指摘する。逮捕されたのはイスタンブール市長のエクレム・イマムール氏。最大野党・共和人民党(CHP)が近く2028年に実施される大統領選挙の候補者に指名する予定だった。BBCによると「トルコ当局は市長を犯罪組織の設立と運営、収賄、恐喝、個人情報の違法記録、不正入札の罪で起訴した。トルコ内務省は声明で、イマモール氏は市長の職も停止された」と表明している。これに対して当のイマモール氏は罪状を否認し、「自分の逮捕は政治的動機によるものだ」と主張。支持者らも一緒に拘束されており、逮捕者はすでに1100人を超えている。この事態を受けて国内では株価や国債、リラが暴落しているが、西側諸国の首脳陣は軒並み沈黙を守っている。

トルコの政治情勢に詳しいわけではないが、エルドアン大統領は国内のみならず米国やロシア、中東諸国などに強い影響力を持っている。大統領として3期目を迎えた現在は独裁的ともいうべき権力を掌握、波乱含みの国際情勢を背景に国内外で強権的な権力を振いはじめている。その大統領に人気面で対抗しているのがイマモール氏だ。はたから見れば今回の逮捕劇、“政敵潰し”の側面が強いように見える。それを裏付けるようにマーケットは急落、経済の先行きに強い懸念を示している。ところが、自由と民主主義という価値観を共有している西側諸国の首脳からは、抗議の声一つとして上がらない。ドイツのショルツ首相が控えめに「気がめいる」(Bloomberg)と呟いただけ。トルコならびにエルドアン氏の影響力に逆らえないのだろう。同大統領に対する忖度から、西側首脳陣は軒並み沈黙を守っているのだ。

Bloombergはこうした状況について「NATOで2番目に大きな軍を持つトルコの大統領で軍司令官でもあるエルドアン氏は、世界がトルコを必要としていることに賭けている」と指摘する。ウクライナ戦争への関与を弱めよとするトランプ政権が登場、欧州はますますエルドアン氏に頼らざるを得なくなる。まさに「沈黙は金なり」というわけだ。価値観を共有する西側諸国にとってこれは大きな“弱点”だ。プーチンという独裁者に力で対抗する術がない。ウクライナにおけるロシア軍の残虐な殺戮行為を声高に非難するが、それを止める術がないのだ。エルドアン氏はそうした力関係を熟知している。国内的に多少無理をしても国際的には誰も非難できない。シュルツ氏の「気がめいる」胸の内がよくわかる。トランプ氏の発想も似ている。ウクライナにとって多少不利な条件でも、停戦が実現すれば誰も非難できない。仮にそうだとすれば、誰も独裁者が牛耳る強権国家の横暴を止めることができなくなる。それでいいのだろうか。ふとそんな気がした。