トランプ大統領は輸入自動車に一律25%の関税を賦課する方針を明らかにした。実施は4月3日から。2日には相互関税の発表も予定されている。ほかにも銅に対する関税も検討されているようだ。世界中に広まりつつある経済への懸念。そんなことにお構いなくトランプ氏は選挙公約の実現に邁進している。FRBは「急いで利下げをする必要はない」と、経済の先行きに対する不安や懸念を隠そうともしない。ひと頃の“トランプラリー”は、いまは跡形もなく姿を消している。いや、むしろマーケットの方がトランプ関税のあまりにも強圧的なやり方に、辟易しているようにみえる。インフレ加速に景気後退懸念、当面静まりそうもない。MAGA(Make America Great Again)の切り札とも言うべき関税が、かつて何度もあった悪夢のような不況(depression)を招くのではないか。MAGAはMADA(Make America Depression Again)に向かっている・・・、不安と懸念は限りなく広がる。

米国経済を振り返ってみると様々な出来事があった。レーガン大統領が提唱したレーガノミックスは、市場機能を活用した新自由主義をベースにしていた。同じ頃に英国ではサッチャー首相が登場、米英が軸となって徹底した市場中心主義経済を推進した。これを機に米国経済は回復軌道に復帰、ソ連邦の崩壊なども手伝って一人勝ちの様相を呈した。これにグローバリズムが加勢する。物づくり大国だった米国の工場は軒並み、中国をはじめとした生産コストの安い海外に移転する。かくして中西部の一帯は“ラストベル”(錆びた工業地帯)に転落。変わって米経済を支えたのが金融資本だ。規制のない自由市場を活用しながら、米国を金融大国に変身させた。だが市場経済には常に行き過ぎがつきまとう。クレジットカードを使った「債務主導型消費」の末路がリーマン・ショックだ。2008年9月15日に大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻した。サブプライム・ローン(低所得者向け住宅ローン)問題に端を発した金融バブルの崩壊だ。

これを機に米国の「長期停滞」が始まる。クリントン政権で財務長官を務めたサマーズ氏が提唱した米国経済の中長期的な危機だ。世界中の経済学者や官僚、政治家が口角泡を飛ばしてその原因と対策を探る。有効な手当が見つからないまま世界中にコロナ・パンデミックが襲いかかる。当面の危機を乗り切るためにバイデン民主党政権が打ち出した対策が、徹底した財政出動だった。FRB議長から財務長官に転じたイエレン氏主導の経済政策だ。当然のことながら財政赤字は拡大する。今朝のニュース中に米議会予算局が、「8月にも財務省が支払不能に陥る」と警告する記事があった。一見順調に見える米経済も水面下で、深刻な危機が静かに潜行しているのだ。これに立ち向かうべく孤軍奮闘しているのがトランプ大統領のMAGAだ。関税が切り札。これによってもたらされる税収を財源に追加減税を虎視眈々と狙っている。だが市場はMAGAがMADAに変質しかねないと危惧する。果たして・・・