中居正広氏をめぐるセクハラ問題でフジTVグループが設置した第三者委員会が昨日、報告書を公表した。A4版で390ページに及ぶ膨大なもの。報告書に目を通したわけではないが、主要メディアやテレビ局が報じる内容を見ながら感じた第一印象は、「フジTVは、とんでもなく時代遅れたメディア」というものだ。NHKによると報告書の「結論」には以下のような記述がある。「中居氏と女性Aとの関係性、両者の権力格差、C X(フジテレビのこと)におけるタレントと社員との会食をめぐる業務実態などから、本事案は、C Xの『業務延長線上』における性暴力であったと認められる」。さらに「業界全体が直面する問題」とも追記する。簡潔にして説得力のある結論だ。中居氏のタレント生命に終止符を打ち、なおかつ、業界全体の問題と釘を刺す。水面下に封じ込められた性暴力の数々、数えたらキリがないだろう。
個人的な経験になるが新人の女性社員会ら「先輩、それってセクハラですよ」と指摘されたのは、今から数えればもう30数年前のことだ。あの頃からセクハラ、パワハラという言葉は人口に膾炙し始めていた。にもかかわらずこの体たらく。問題はフジテレビだけではない。日本の企業社会は「同業他社」の動静にものすごく敏感という特徴がある。何かにつけ同業他者と比較するのだ。同業他社がセクハラ問題に真摯に対応していれば、おそらくフジTVも同グループも、これほど杜撰に「業務延長線上」のセクハラを無視することはできなかっただろう。報告書が指摘する通り、テレビ業界におけるセクハラはまさに「業界全体の問題」なのだ。ジャニー喜多川氏の性加害問題を持ち出すまでもない。過去には業界全体が知りながら無視してきたという事実がある。どうしてこれほど酷いのか。
テレビ業界というのは、国民の財産である“電波”の割り当てを受けて成り立っている。国民の財産を差配するのは総務省。諸外国の事例をみると、電波の割り当ては多くの国で入札制をとっている。これに対して日本は、総務省のいわゆる「総合的な判断」で割当先が決まる。結果的に何が起こるのか。ひと頃問題になった過剰接待である。時代遅れはテレビ局だけではないのかもしれない。監督官庁である総務省も、割当先であるテレビ局の業務実態を把握していなかった、あるいは知りながら無視していたのかもしれない。頭の中で一事が万、すべからく連鎖し連想が駆け巡る。政治家は大丈夫か、官僚は、学者は、教師は、ビジネスマンは、メディアは・・・、思考の連鎖は止まらない。やっとの思いで平静を取り戻し、ふと思う。八方塞がりに陥った日本経済の元凶は、フジテレビなみの「時代遅れ」のせいかもしれない、と。