トランプ関税をめぐる米国の分断が加速している。Bloombergによるとトランプ大統領やDOGEを率いるマスク氏に対する反発から全国でデモが多発している。5日には全米の50州で1200件以上の「Hands Off(手を出すな)」デモが計画されたと、AP通信が報じた。主催者には、市民権団体、労働組合、LGBTQ(性的少数者)擁護団体、退役軍人団体などが含まれていたとある。要するに反トランプ派の抗議デモと見て良さそうだ。読売新聞はクリントン政権で財務長官を務めたローレンス・サマーズ氏が3日X(旧ツイッター)へ投稿、「政権が関税データを使用せずに相互関税率を計算していたことは明らかだ。もし私が関わった政権がこれほど危険で有害な経済政策を打ち出していたら、抗議の意を込めて辞任していただろう」と痛烈に批判した、と伝えている。これに呼応するかのように、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏も、批判を強める。

自身が配信するニュースレターで「彼(トランプ氏)は完全に狂っている。想定よりはるかに高い関税を課しただけではなく、貿易相手国について虚偽の主張をしている」(読売Web版)とつづった。一国の大統領を「狂っている」と断罪するあたり、さすがノーベル賞学者だ。日本の御用学者はできないだろう。フランスのマクロン大統領も「対米投資を中止せよ」と強硬な主張を繰り返している。E Uのフォン・デア・ライエン委員長も報復関税を匂わせるなど強硬派の列に連なる。だが他の指導者とちょっと異なるのは、3日に発表した声明文の中に次のような一文があることだ。「同時に、私たちはグローバルな貿易システムに深刻な欠陥があることを知っています。私はトランプ大統領に同意します。他国が現在のルールを不当に利用していると。そして、私はグローバルな貿易システムをグローバル経済の現実に適合させるためのあらゆる努力を支持する用意があります」。おそらくこれが、トランプ関税をめぐる一連の騒動の隠れた“本質”だろう。

米国の貿易赤字は2024年に日本円にして約180兆円に達した。史上最高の額だ。日本も貿易収支は恒常的に赤字。だが、配当や金利収入を含めた経常収支はほぼ一貫して黒字だ。米国は経常収支も赤字。コロナで財政赤字は急拡大。財務省の支払い能力はこの6月か7月にも上限を突破する可能性がある。通年予算はここ数年、暫定予算で凌いでいる始末だ。トランプ氏が掲げるMAGAは最後の Againに本当の意味がある。「弱くなった米国を“再び”強くしよう」。要する、米国は圧倒的に“弱い国”なのだ。その弱い国の脛を世界中がしゃぶっている。これを止める、これがトランプ関税の本当の狙いだ。大統領を「狂っている」と主張するクルーグマン氏は、「米国はこのまま落ちぶれていけばいい」と言っているに等しい。確かにやり方はまずい。だが正当な手段でこれを直そうとしたら、莫大な時間を浪費してほんの少しの改善が進むだけだろう。人類は相変わらず暴力的な手段でしか問題を解決できない。関税問題はそれを象徴しているのではないか。