日経新聞の特ダネだろう。英国の投資ファンドが東芝の全株式を買い取る計画を進めている。これが実現すれば東芝は非上場会社になり、物言う株主から解放される。そうなれば成長部門に集中投資が可能になり、企業としても成長できる。この計画の裏にはそんな関係者の思惑が秘められているとみる。東芝は取締役会でこの計画を受け入れるかどうか審議するとある。独断と偏見で断定すれば受け入れると思う。というよりも、最初からこの計画に絡んでいるのではないか。この計画のプレイヤーは、まず買収に名乗りをあげた英国の投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズ、次が物言う株主であるシンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメント。経営陣ならびに東芝の株主も重要なプレーヤーだ。ちなみに東芝の車谷暢昭社長は以前にCVC日本法人の会長をしている。CVCとはツーカーかもしれない。

東芝は2014年に不正会計問題が発覚、翌年には米原発子会社の巨額な損失が表面化、日本を代表する優良企業が倒産の危機に直面する。債務超過による上場廃止を回避するため、17年12月に6000億円の増資を実施した。この時の引き受け手がエフィッシモである。その後も稼ぎ頭の東芝メモリーを売却、社長も三井住友銀行の副頭取だった車谷氏に交代。試行錯誤を繰り返しながらなんとか上場廃止を回避、ここにきて業績もようやく回復軌道に乗りつつあった。今年の1月には東証2部から1部に復帰し一応経営危機を乗り越えたかに見えた。さあこれからという矢先、今度はエフィッシモから取締役の選任を求める株主提案があり、物言う株主と経営陣が水面下で対立する事態に発展した。3月にはエフィッシモが要求した臨時株主総会が開かれ、取締役の選任を求めた株主提案が可決されている。

経営陣にしてみれば倒産の危機に直面した時に手を差し伸べてくれたファンドが、いまや物言う株主としてうるさい存在になりつつあった。そこにCVCという別の投資ファンドが割って入ってきた。CVCは現行の株価に3割のプレミアムをつけて全株式を買い取ると提案している。これにかかる資金は総額で2兆円を超える。これが実現すれば東芝の株主はCVCだけになる。非上場企業なった上で経営陣は、CVCと二人三脚で成長戦略を立てられる。成長基盤を整えた上で再上場すれば、投資資金の回収は簡単にできる。CVCにとっても損はない。既存の株主も3割のプレミアムが入れば文句はないだろう。経営陣にも不満はない。すべてカネで割り切れる。エフィッシモも儲かれば手を引くだろう。問題は一連の事態を引き起こしたガバナンスの改善が担保されていないことだ。この計画が絵に描いた餅にすぎないというリスクは残る。