平昌冬季五輪の閉会式に出席した北朝鮮の金英哲朝鮮労働党統一戦線部長=平昌五輪スタジアムで2018年2月25日、AP

 【ソウル大貫智子】平昌(ピョンチャン)冬季五輪閉会式出席のため、北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党統一戦線部長ら代表団が25日、訪韓した。閉会式に先立ち、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は同日、金氏らと会場近くで約1時間会談。韓国青瓦台(大統領府)によると、文氏が米朝対話の早期開催を求めたのに対し、北朝鮮側も米朝対話に臨む用意があるとの考えを表明した。

 会談で文氏は、北朝鮮の五輪開会式(9日)に続く閉会式への代表団派遣や、女子アイスホッケーの南北合同チーム結成などにより、五輪が平和裏に開催できたと評価。「南北関係が今後も広い範囲で進展されるべきだ」と述べたのに対し、北朝鮮側は「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長も同じ意思だ」と応じ。

 さらに文氏が「南北関係改善と朝鮮半島問題の本質的解決のためにも、米朝対話が早期に開かれなければならない」と訴えると、北朝鮮側も南北関係と米朝関係は共に発展すべきだとの考えで一致したという。北朝鮮国営メディアは25日夜現在、代表団の韓国訪問のみ報じ、文氏との会談内容は伝えていない。ただ、党機関紙「労働新聞」は25日、4月に延期された米韓合同軍事演習について「再開すれば断固として対処する」と中止を求める論評を掲載。文氏との会談でも議題になった可能性がある。

 北朝鮮代表団は25日午前、陸路韓国入り。金氏は朝鮮人民軍偵察総局長だった2010年、韓国海軍哨戒艦沈没事件を主導したと見られており、保守層や事件の遺族は金氏訪韓に強く反発。最大野党・自由韓国党の国会議員らは金氏訪韓を阻止するとして抗議集会を開催し、北朝鮮代表団が迂回(うかい)してソウル市内の宿舎に向かう場面もあった。文氏が青瓦台ではなく閉会式会場周辺で会談したのは、こうした世論に配慮したためとみられる。

 一方、閉会式にはトランプ米大統領の長女、イバンカ補佐官も出席。イバンカ氏は北朝鮮側との会談予定はないと否定するが、米朝双方の代表団には核問題担当の実務者が同行しており、韓国メディアは接触の有無に注目している。