本日付の日経新聞によると人手不足が深刻化する中で、新卒の初任給にも格差拡大の動きが広がってきた。これまでほぼ横一線だった大卒初任給だが、激烈な人材獲得競争を反映して大きく開き始めている。同紙によると「800万円の年俸を提示した学生が内定を辞退したという事例などがあった」久しぶりのサプライズだ。知らぬ間に人材の獲得競争はそこまで激しくなっているのだ。800万円を提示しても内定を辞退するというのだから驚きだ。大手企業がAIをはじめとした技術系の人材確保にしのぎを削っているというニュースは時々目にしていた。現実はもっと激しく動いている。年収800万円を蹴ったこの人には、それ以上に高い給料を払う企業があるということだ。

新卒の初任給が仮に月額25万円だとすると、この人の年収は300万円になる。結構な水準だと思う。年収800万円ということは一般的な初任給の2.67倍である。日本人の平均年収は400万〜500万円だろう。それをはるかに上回る年収の提示を断るというのだから、優秀な人材の確保がいかに激しいか、その一端を物語っている。それだけではない。同紙によると「電子商取引(EC)のBEENOSも19年4月の新卒採用から、能力に応じて初任給を360万~960万円とする制度に切り替える」とある。もはや採用の基準は大学でも協調性や熱意といった人格でもなく、「能力」なのだ。そして能力のある人材には年齢給や給与体系といった日本的な昇級基準は適用されない。能力さえあれば収入は青天井に膨らんでいく。

なにやらプロスポーツ選手の契約交渉のような雰囲気だ。能力主義、実績主義は一般サラリーマンの世界にも及んできた。いいような、悪いような話である。おそらく多くの平均的な日本人はこうした動きを快く思わないだろう。人並みで、世間の動きに同調しながら生きることにウエイトを置いてきた日本人にとって、簡単に受け入れられない現実なのかもしれない。いずれにしてもかくして格差は拡大する。能力の格差が年収の格差をもたらすという典型的な事例である。そしてこれがIT社会の紛れもない現実である。必然といってもいい。AIやIoTはエンジニアの能力で成り立つ社会だ。勝つためには企業もサラリーマンも「平等」という概念などかなぐり捨てる必要がある。かくして格差は拡大する。格差のない社会はますます遠くなる。