北朝鮮の金正恩委員長は米韓の首脳会談をセットしただけではなく、中国の習近平主席とも会談した。きょうか明日には北朝鮮の幹部がEU幹部と会談する予定だと報じられている。非公式訪問だった中国では、習近平主席がまるで随員であるかのような印象だった。自らの名前を憲法に盛り込み歴史上の指導者になった習氏を前に、金正恩は身振り手振りを交えてまるで習氏をもてなしているかのように振舞っていた。挙げ句の果てに国宝に準じるほどの花瓶や宝石など、贅を尽くしたお土産の数々。これではいくら国連を中心に世界が「最大限の圧力」をかけても、金一族を増長させるだけだろう。中国も一党独裁国家である。国民よりも指導者が満足できればそれでいいのだろうか。中朝首脳会談は異様な光景に見えた。

新年の演説で始まった北朝鮮の平和攻勢は留まるところを知らない。個人的には平昌オリンプッック・パラリンピックが終了するまで、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が北朝鮮に擦り寄るのは致し方ないと思っていた。リベラル派の代表である文政権は国内では保守派の批判にさらされており、選挙公約である対話路線を推進するしかない。北朝鮮への配慮は選挙公約の実現でもある。それはそれで理解出来る。ところがオリンピック後の北朝鮮の振る舞いは、橋渡し役の韓国の気遣いなどどこ吹く風の勢いだ。独自に中国との関係改善に踏み切りEU、ロシアなど世界中に対話攻勢を仕掛けようとしている。韓国は利用されているだけなのか。そして世界中のメディアも、金委員長が国際的な指導者の仲間入りを果たしたかのように扱っている。

北朝鮮は国家の命令によって日本から何人もの罪もない人々を強制的に拉致した犯罪国家である。拉致の事実は認めたものの、まだ多くの日本人が帰国していない。これ一事をみても凶悪な無法国家である。アメリカは北朝鮮を「悪の枢軸」と定義している。マレーシアで金正恩の義兄を殺害したのはついこのあいだのことだ。大韓航空機の爆破事件はいまだに多くの人々の記憶に残っている。金正恩は国内でも多くの政敵を裁判にかけずに殺害している。こういう国の独裁政権に国際政治はしめしを付けるべきだ。非核化はもちろん大事だが、仮に北朝鮮が核を放棄したとしても過去の罪状が全て消えるわけではない。いま、世界中の指導者に問われているのは北朝鮮の体制の維持ではないはずだ。金正恩委員長を国賓並みに大歓待した習政権に世界中のメディアは何も言わない。世界が良くなっていくようにはとうてい思えない。