世界最大の交流サイトを運営するフェイスブックのザッカーバーグCEOは、最大で8700万人分の個人データが流出した問題をめぐってアメリカ議会で初めて証言し、対応の不備を謝罪したうえで、利用者の保護に重点を置く姿勢を強調しました。フェイスブックは、最大で8700万人分の利用者の個人データが第三者のデータ分析会社に流出し、おととしのアメリカ大統領選挙でトランプ陣営の選挙対策に使われたとされる問題をめぐって、批判を浴びています。

こうした中、ザッカーバーグCEOが10日、アメリカ議会上院の委員会で初めて証言しました。冒頭で、ザッカーバーグCEOは「フェイスブックは理想的で前向きな会社だ。しかし、みずからの責任への認識が甘く、誤りを犯した。申し訳ない」と述べ、謝罪しました。そのうえで、個人データを不正に入手したデータ分析会社からの「データは消去した」という回答がうそだったのに信用し、事実上問題を放置したと対応の不備を認めました。

また、ザッカーバーグCEOはフェイスブックを悪用してフェイクニュースが拡散し、大統領選挙ではロシアによるとされる干渉を招いた問題についても、対応が不十分だったとしたうえで、新たな対策として偽のアカウントなどを調査する人員を2万人まで増やし、AI=人工知能を使ってフェイクニュースの拡散を監視すると説明しました。そして、今後は利用者の保護に重点を置く姿勢を強調しました。

議事堂前では抗議 傍聴者の長い列

フェイスブックのザッカーバーグCEOの議会での証言に合わせて、連邦議会議事堂の前には、抗議の意を表すため、ザッカーバーグ氏の顔写真が貼られたボードがおよそ100枚、並びました。胸の部分には、個人データの保護やフェイクニュース対策などを進めるよう求めて、「フェイクブックを修理せよ」(FIX FAKEBOOK)というメッセージが書かれています。また、公聴会が開かれた議会上院の委員会の部屋の前には傍聴に来た人が何時間も前から長い列を作り、関心の高さをうかがわせました。

個人データの流出を問題視する女子大学生は「ザッカーバーグ氏がデータの流出をめぐり、流出の人数などでうそをついていたことに怒りを感じています。彼がそのことを反省して、個人データの保護対策が進むことに期待しています」と話していました。また、別の女性はフェイスブックによる利用者の個人データの収集が行き過ぎだと訴え、「フェイスブックは利用者の行動を監視しています。この公聴会で、変わるつもりがあるか確かめ、そうでなければ使用を止めたいと思います」と話していました。

利用者の懸念噴出

先月、アメリカのニューヨーク・タイムズとイギリスのオブザーバーが、「フェイスブックの利用者の個人データが不正に第三者のデータ分析会社に流出」と報じました。元社員の話をもとに「2016年の大統領選挙でこの情報がトランプ陣営の選挙対策に利用された」とも伝えています。

流出したデータは、報道では「5000万人以上」でしたが、今月4日、フェイスブックは調査を進めた結果、「最大で8700万人」だったと発表しました。その大半はアメリカの利用者です。報道によりますと、流出した可能性があるのは、氏名などの基本情報のほか、誕生日、どこに行ったかなどを示す位置情報、学歴、投稿した写真や、”いいね”などの反応、信仰する宗教などのデータだということです。

なぜ、どのように流出したのか。
フェイスブックによりますと、イギリスのケンブリッジ大学の心理学の教授が2013年、クイズ形式で性格を診断するアプリを開発し、フェイスブックの利用者およそ30万人がダウンロードしたということです。当時、このアプリは、利用者本人が同意していれば、フェイスブックで「友達」として交流している利用者の友人のデータまで集める設定になっていました。その結果、本人だけでなく友人のデータも含む大量の個人データが教授のもとへ集まったということです。

フェイスブックは、翌年には設定を変更し、今はアプリを利用しても、友人のデータまでは収集されないようになっています。こうしたデータを教授が研究目的で利用するかぎり問題はありませんでした。しかし教授は、この情報をイギリスのデータ分析会社「ケンブリッジ・アナリティカ」に売却し、これがフェイスブックの規約違反に当たるということです。

ケンブリッジ・アナリティカは、データ分析を得意とする選挙コンサルティング会社で、トランプ政権のバノン前首席戦略官が創業者の一人と報じられています。フェイスブックは、再発防止策をとったことで今回のような問題はもう起きないと説明していますが、大量の個人データを長期にわたって保存している会社がきちんとデータ保護の対策をとっているのか、利用者の懸念が一気に噴き出しています。

“無料”は個人情報と引き換え

フェイスブックはマーク・ザッカーバーグ氏らがハーバード大学在学中の2004年に創業しました。2004年に100万人だった利用者は、今では21億人に上ります。この21億人から同意を得て集めた膨大な「個人データ」がフェイスブック最大の武器です。個人データは、氏名や電話番号にとどまらず、「犬が好き」、「くつやカバンの広告をついクリックしてしまう」、「友人の旅行関連の投稿に”いいね”と反応している」といった利用者の好みや行動パターンまでを含みます。

また、フェイスブックのデータポリシーによりますと、GPSやWi-Fiの信号から特定できる位置情報も収集しています。フェイスブックを使っていて、画面に、自分の好みにぴったりの商品を勧める広告が表示され、驚いたという経験がある利用者もいるかもしれません。こうした広告はフェイスブックを使った際に、意識しているかどうかは別にしてみずから提供している個人データが使われているのです。

フェイスブックは、個人データを保存してはいますが、個人データそのものを広告主に提供しているわけではありません。広告主が求める年齢や趣味などの利用者のグループ、“ターゲット層”を、個人を特定できないよう提供しています。例えば、自転車の販売店がターゲット層を「18歳から35歳」、「女性」「店舗から20キロ圏内」「趣味・関心はサイクリング」と設定すると、「サイクリングが趣味で東京都新宿区在住の30歳の女性」などに広告が配信されます。テレビコマーシャルのように不特定多数を対象にする広告より、購入しそうな層を絞り込んでいるため、広告効果を高められるといいます。データこそ”21世紀の資源”、あるいは”次世代の通貨”と言われるゆえんです。

ザッカーバーグCEOは4日の電話会見で、「新しいテクノロジー機器やスキーといったように、関心のある分野の広告を表示してほしいという利用者が多い。フェイスブックが利用者の関心を把握できるのは、利用者が個人データをシェアすることに合意したからだ」と述べました。利用者は、フェイスブックを使い始めたとき、個人データを提供することに合意しているはずだというわけです。

利用者は「広告の設定」で、表示される広告を絞ったり、特定の広告を表示しないようにしたりはできますが、広告を完全に非表示にすることはできません。フェイススブックは「運営コストは広告によってまかなわれています。あなたに関連のある、興味を持っていただけるような項目だけを表示するように努めます」と説明しています。

去年10月から12月までの3か月間の決算で見ますと、売上高のうち、広告が占める割合は、フェイスブックが最も高く99%、ツイッターが88%、グーグルが85%です。フェイスブックの経営は広告収入が頼りなのです。

一方、同じIT大手でもアップルは、スマートフォンなどの機器を販売しており、広告収入はありません。アップルのクックCEOは、先月、フェイスブックのデータ流出問題について聞かれ、個人データを広告に使わないことを踏まえ、「こうした事態は起きない」と違いを強調しました。これに対して、ザッカーバーグCEOはすかさず、「金持ち以外にもサービスを提供するには広告は必要」と反論しました。世界中の利用者がフェイスブックの“便利”なサービスを無料で使えるのは、個人データと引き換えだから、です。

断片情報で利用者特定のリスク

フェイスブックのデータ流出問題が連日、大きく報道される中、ザッカーバーグCEOはアメリカとイギリスの主要紙に先月謝罪広告を出し、相次いで対策や再発防止策を打ち出しています。まず、プライバシー保護の設定画面は、これまで20か所に分散して「わかりにくい」と指摘されていましたが、これを1か所にまとめました。また、自分のアカウントに外部から不正にアクセスされることを防ぐため、ログインを2段階にしました。投稿や友人とのやり取りなど、フェイスブックが保存している利用者のデータは、利用者本人が確認したうえで、必要に応じて削除できるようにもしています。

さらに今月には、利用者の電話番号やメールアドレスなど一部の情報を入力すれば、特定の利用者を探し出せるという検索機能を廃止しました。断片的な情報さえあれば利用者が特定されて、その人に関するさまざまな情報が流出するリスクがあったためだと、フェイスブックは説明しています。

再発防止策を相次いで打ち出したことについてザッカーバーグCEOは、電話会見で「データ保護などについて対策が十分ではなかった。その責任は私にある」と述べ、個人データを保護するための対策を強化する考えを示しました。

「選挙の正当性守る」

フェイスブックをめぐっては、最大8700万人の個人データが流出し、おととしの大統領選挙でトランプ陣営の選挙対策に使われたとされる問題とは別に、もう1つ大統領選挙にまつわる問題が指摘されています。

アメリカの情報機関がロシア政府に近いと指摘する団体が、多くの投稿を通じて選挙に干渉したという問題で、フェイスブックは十分な対策を取らず「フェイクニュース」の拡散につながったとして厳しい批判を受けています。

フェイスブックによりますと、この団体は、アメリカの「インターネット・リサーチ・エージェンシー」という団体で、470のアカウントなどを使って大統領選挙の期間中、情報操作のために8万回投稿を行い、全米で1億2600万人が閲覧した可能性があるということです。この投稿で取り上げられたのは、人種や銃規制など有権者の意見が鋭く対立した争点ばかりで、フェイスブックはアメリカ社会の分断を狙ったものだったとしています。同じ時期、「インターネット・リサーチ・エージェンシー」は、10万ドル(1000万円以上)を使って、フェイスブック傘下の「インスタグラム」に3000の広告を出し、アメリカの1100万人が閲覧したと見られるということです。

これを受けてフェイスブックは先月29日、「フェイクニュース」の拡散阻止に向け、アメリカだけでなく各国の報道機関と連携し、選挙に関連したミスリーディングな情報を削除するなどの対策も打ち出しました。また、「なりすまし」などの偽のアカウントの閉鎖を進め、今月3日には、「インターネット・リサーチ・エージェンシー」の偽のアカウントを70閉鎖し、このうち95%がロシア語だったと発表しています。

外国による選挙への干渉についてザッカーバーグCEOは今月4日の電話会見で、ことしも、メキシコやブラジルの大統領選挙、アメリカ議会の中間選挙が行われると指摘し、「2018年は世界中で選挙の正当性を守るため重要な年になる」と述べました。

そして、6日には、選挙の「候補者」に関する広告に加え、政治的な「争点」に関する意見広告についても、資金を出している組織の名前と所在地を広告画面の左上に明示するという新たな対策を発表しました。こうした広告を出すにはフェイスブックの認証も必要としています。選挙のどのような「争点」をこの対策の対象にするかは、今後、社外の専門家らと検討するということですが、発端となった「インターネット・リサーチ・エージェンシー」の投稿内容が、人種や銃規制など、有権者の意見が鋭く対立する争点だっただけに、こうしたテーマが対象になると見られています。

メディアに準じた規制求める声も

フェイスブックの問題を受けて、アメリカ政府で消費者保護を担当するFTC=連邦取引委員会は、大量の個人データを扱うフェイスブックの情報管理が適切だったかどうか、調査を進めています。今後の焦点は、同じように大量の個人データを扱う大手IT企業に対する規制の在り方です。

フェイスブックをめぐっては、アメリカの情報機関がロシア政府に近いと指摘する団体が、おととしのアメリカ大統領選挙の際、選挙の争点に関する多くの投稿を通じて、選挙に干渉したとされる問題も指摘されています。また、ツイッターでも、大統領選挙に合わせてこの団体に関連したアカウントから13万件以上の投稿があり、グーグルの傘下の動画共有サイト「ユーチューブ」にもおよそ1100本の動画が投稿されたということです。

このため、こうしたIT企業に対しては、「場」を意味する「プラットフォーム」ではなく、「メディア」に準じた規制を適用して、政治的な広告の資金の出し手の公表を義務づけたり、掲載する情報の正確性にも責任を持つようにしたりするべきだという声が強まっています。

個人データをめぐる規制強化の波は、アメリカにとどまりません。EU=ヨーロッパ連合は、来月25日にGDPR=一般データ保護規則を施行し、メールアドレスやクレジットカード情報などのデジタルデータを、国をまたいで利用する場合の規則を厳しくします。利用するには、原則として本人の明確な同意が必要になり、違反した企業には高い制裁金が科されるため、各社ともいっせいに対応を迫られています。ザッカーバーグCEOは電話会見で「ヨーロッパのみならず、すべての地域で同じような個人データの保護が行えるよう設定できるようにする」と述べました。

大手IT企業 株価は値下がり

フェイスブックの個人データの流出問題は好調な株式市場のけん引役だった大手IT企業の株価にも影響しています。フェイスブックの個人データの集め方や保護の在り方に批判が集まり、フェイスブックの株価は、9日の時点で問題の発覚前より14%余り値下がりしました。IT業界全体に対して、規制が強化されるという懸念からほかの企業の株価も下落しました。ツイッターは21%、アマゾン・ドット・コムは10%、アップルは4%、グーグルを傘下に持つアルファベットは10%の下落となっています。

集めた個人情報は「次世代の通貨」

個人データを取り入れながら行われる「デジタル広告」の市場規模は、アメリカの複数の調査会社によりますと、世界で年間20兆円を超えます。この市場で圧倒的なシェアを握るのが、グーグルとフェイスブックです。

ブルームバーグによりますと、おととし2016年の世界のデジタル広告費のうち、グーグルを傘下に持つアルファベットが61.4%、フェイスブックが25.7%で、上位2社で9割近くを占めています。次いで、中国のバイドゥが7%、中国のテンセントが3.9%、ツイッターが1.4%、などとなっています。

最大のグーグルは、集めている個人データとして、検索結果、グーグルマップの使用状況、傘下の動画共有サイトユーチューブの閲覧状況、クリックした広告、カレンダー情報などを挙げています。グーグルは、利用者の関心を持つ広告が表示されるようにするのが目的だと説明しており、「ほかの会社にデータは売らない」と明確にしています。

一方、フェイスブックは、集めている個人データとして、閲覧した広告、”いいね”と反応した投稿、GPS機能やアクセスしたWi-Fiの信号から特定できる位置情報などを挙げています。よりよい広告を表示し、広告効果を測定するためだとしていて、ザッカーバーグCEOは「データはほかの会社に売らない」と繰り返し発言しています。

さらにツイッターは、投稿したり、シェアやフォローしたりしているツイート、クリックしたホームページ、Wi-Fiや携帯電話の信号から特定できる位置情報などを集めているとしており、「経営破綻や買収に際しデータを売る可能性がある」と明らかにしています。

このほか、アマゾン・ドット・コムは集めている情報として、クリックした商品や広告、商品の購入履歴やレビュー、情報をダウンロードした際に得られる位置情報を挙げており、「データを他社には売らない」としています。

大量の個人データは企業の経営戦略を左右し、AI=人工知能の能力向上のためにも使われることなどから、「21世紀の資源」、「次世代の通貨」と呼ばれ、選挙で有権者の投票行動を予測するためにも使われるなど、利用範囲が拡大しています。

個人情報の扱い 国内で利用されるSNSは

国内で7300万人が利用している通信アプリ大手の「LINE」は、本人の同意が得られた場合、企業が公開しているアカウントに送信した文章や画像の内容、それに利用者の友達が公開している情報が一覧として表示される「タイムライン」の内容を取得しているということです。

集めたデータは今後、利用者に応じて最適な広告を表示したり、興味や関心の傾向が似ている人が利用しているサービスを勧めたりするのに活用していくということです。

セキュリティーについては、個人どうしのやり取りの内容は暗号化し、サーバーの管理者でも内容を閲覧できない仕組みにしているとしています。

一方、SNSの「ミクシィ」は、利用者として登録する際、本名や詳しい住所、電話番号など、個人の特定につながる情報は必要とされていません。利用者がSNSの情報を友人などに公開する設定にしている場合に限って、本人がアクセスしたコンテンツの内容、それに性別や年齢、それに職業などの属性を広告主などに提供しているということです。

また、本人の同意が得られた場合は、SNS上の友人の一覧や参加している「コミュニティ」などの情報を外部の企業などに提供することがありますが、いずれの場合にも個人の特定につながる情報を提供することはないとしています。


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