トランプ政権の貿易政策に一向に矛を収めそうな気配が見せない。今週中には米中とも貿易摩擦の落とし所をめぐって交渉を始めるのではとの個人的な見立てていたが、どうやら完全に的を外したようだ。このまま貿易戦争勃発かと思いきや、トランプ氏は中国の対米投資に関して強硬姿勢を後退させ始めているとの記事が複数のメディアに掲載された。すわ貿易戦争収束の兆しかと期待してみた。時事ドットコムによると、「トランプ米大統領は26日、中国資本の米ハイテク企業への投資規制について、厳しい制限を盛り込んだ新たな措置ではなく、既存制度の見直しで対応できるとの考えを示し、これまでの強硬姿勢を後退させた」としている。

理由は毎度のことだがはっきりしない。これが貿易摩擦の収束につながる一手かどうかも不明だ。それでも強気一辺倒の姿勢に変化の兆しと見ることもできる。なによりこの変化の裏に穏健派のムニューシン財務長官がいることが期待を膨らませる。一方の中国、習近平主席の独裁体制が確立し、外交も経済交渉も、対外交渉は強気一辺倒で、かつ、一枚岩の団結を誇っているように見える。その中国も内部は一糸乱れずとはいかないようだ。ブルーンバーグによると貿易摩擦で対中強硬論を取っている中国政府の方針について、「内部で異論が出ている」という。「中国指導部の対米貿易方針、国内で疑問視-景気懸念下で異例の動き」とタイトルされたこの記事によると、「米中間の貿易摩擦が激しくなる中、中国国内では米国と争う準備が整っているのかと公然と疑問視する声が出ている」と指摘している。

党指導部の決定に異論を挟めないのが中国の政治体制である。そんな中で目には目を、歯に歯をと対等の立場で米国に対抗しようとしている指導部の方針に疑問を呈する声が出始めているというのだ。これが事実なら穏やかではない。5月の鉱工業生産や固定資産投資など中国経済に減速の兆しが出始めている。中国も必ずしも万全ではないのだ。おまけに中国はいまなお水面下に莫大な不良債権が眠っているとも言われる。米国も長短金利逆転の機運が強まるなど、景気の先行きは万全ではない。そうした中で繰り広げられるトランプ大統領と習近平主席の“やせ我慢”競争。お互いメンツにこだわっていても仕方がないと思うのだが、覇権を競う指導者は降りるに降りられないのだろう。国際政治もうんざりすることが多い。