トランプ大統領のイランに対する経済制裁が本格的に始まったが、次の記事をみてその効果が意外に大きいことに驚いた。問題の記事はブルーンムバーグが昨日遅くに流した「トランプ米大統領のイラン制裁で欧州が動揺、ダイムラーは投資中断」という見出しがついている。それによると「米政府がイランに対する経済制裁を再開して数時間経ったときのこと、ドイツの自動車メーカーであるダイムラーが、イランでメルセデス・ベンツ車の販売を拡大する計画を取りやめた。イラン核合意の存続を目指す欧州連合(EU)が、トランプ氏の強硬な行動から企業を守る措置を発表したにもかかわらずだ」とある。これを受けてブルームバーグは「イラン経済を孤立させたいというトランプ米大統領の計画はうまくいっているようだ」と解釈した。

トランプ大統領は昨日ツイッターで「イランとビジネスをしている者は誰も、米国とビジネスをする機会を与えられることはない。私は世界平和を求めている。それ以下は受け入れられない!」とつぶやいた。例によって例のごとくトランプ大統領の“オドシ”だが、この“オドシ”が意外に効果を発揮しているようだ。欧州はトランプ大統領に対抗すべく、6日夜、EUが「米国の行動について『強く遺憾に思う』」と表明。「われわれはイランとの合法的なビジネスに携わる欧州企業を保護する決意だ」と表明している。その数時間後に保護されるべき欧州の優良企業がイランでの販売計画を取りやめたのだから、トランプ大統領の威力はすさまじいとしか言いようがない。ダイムラーのベンツ販売計画は、イランに対する経済制裁の中止を受けて始まったものである。EUがいくら「欧州の企業を守る」と言っても、当該企業はEUよりもトランプ大統領に目を向けており、トランプ大統領の意向を優先している。

少し前に台湾の部品メーカーが中国の工場を閉鎖し、米国に新しい工場を作る意向を示しているという記事があった。今回の記事も米国ファーストを目指すトランプ政権の強硬な姿勢が、一部の有力企業の間で絶妙な効果を発揮していることをうかがわせる内容だ。いずれも民間の話。国家間ではイランと北朝鮮の外相会談で両国は一層緊密な関係を構築することで合意したとの報道もある。米国から非核化を求められている両国は相携えて連携を強化しようとしている。国家同士は打たれれば反発する。だが、民間企業はイランや北朝鮮とビジネスをすると、米国とビジネスができなくなると言われれば従わざるをえなくなる。国家同士では折り合えない貿易摩擦も民間は従わざるを得ない。ということは、非核化も貿易摩擦も民間を取り込むことで優位に立てる可能性が強くなる。トランプ大統領の強圧的な経済外交、民主的な国の民間企業には効き目がありそうだ。国家間の強圧的な外交に民間は対抗すべき手段がない。