日韓関係には多くの火種が

 韓国の造船業界の補助金は過剰だとして、日本政府が世界貿易機関(WTO)提訴に向けた手続きに入り、日韓関係に新たな火種が加わった。新日鉄住金に元徴用工への賠償を命じた韓国裁判所の判決を巡るにらみ合いも続き、安倍政権は日本の主張の正当性を国際世論に訴え、韓国に早期是正を迫る方針だ。【秋山信一、和田憲二】

 「友好的解決の必要性を伝えたが、韓国政府は『市場を歪曲(わいきょく)していない』との説明を繰り返した」。石井啓一国土交通相は6日の記者会見で、造船業への補助金を巡る韓国側の対応に不満を示した。日本は是正を再三求めたとも説明し、提訴に理解を求めた。

 日本政府は2015年、東京電力福島第1原発事故を理由に水産物輸入を規制するのは不当だとして、韓国をWTOに初めて提訴した。16年は日本製バルブに課している反ダンピング(不当廉売)関税を巡って、また今年に入ってもステンレス棒鋼への同関税を問題視して提訴。今回提訴すれば4件目だ。

 日韓の溝は9月下旬から拡大している。米ニューヨークでの日韓首脳会談で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が日韓合意(15年)に基づく「和解・癒やし財団」の解散を示唆。財団は日韓合意の基盤だけに、安倍晋三首相は合意の着実な実施を求めた。

 10月には、韓国での国際観艦式で自衛艦旗である旭日旗の掲揚が禁じられ、海上自衛隊が参加を中止。また、韓国の国会議員が島根県・竹島に上陸した。いずれも日本側は事前に再考を求めたが、韓国側は応じなかった。

 最大の火種である徴用工問題は10月30日の判決以降、出口が見えない。日本側は日韓請求権協定で「元徴用工への賠償問題は解決した」との立場。しかし韓国当局が日本企業の資産を差し押さえれば「手遅れ」になりかねず、いらだちを募らせる。今回のWTO提訴手続きについて、日本政府関係者は「タイミングは偶然だが、今後の外交カードになりうる」と指摘した。

 河野太郎外相は6日の記者会見でも徴用工判決を「国際秩序への挑戦だ」と批判。国際司法裁判所(ICJ)への提訴などを視野に入れ、国際世論にアピールして韓国に早期の対応を迫る構えだ。

 安倍首相と文大統領は今月中旬に東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議で顔を合わせるが、日本外務省幹部は「こちらから会談を申し込む状況ではない」と冷ややかで、関係改善の糸口はつかめない。ただ、日韓関係がさらに悪化すれば、北朝鮮の非核化に向けた日米韓の連携も揺らぎかねず、難しい局面が続く。