米国の中間選挙が終了した。共和党が上院を制し、民主党が8年ぶりに下院で過半数を獲得した。事前の予想通りの結果である。メディアの予想が珍しく当たった。いずれにしても個人的にはなんとなくホッとした。民主党を支持しているわけではない。選挙公約を実現するために前例がないほど強権的に、政策を次から次へと発動するトランプ政権に対して多少ブレーキがかかるのではないかと期待するのである。これによって政策遂行のペースは若干遅くなり、延々と議論が続くことになるだろ。それでも断崖絶壁の上を猛スピードで疾走する恐怖感はなくなる。政治が良い方向に向かうとは必ずしも思わないが、うんざりするような独善主義も通らなくなるだろう。いらだつトランプ氏。CNNと大統領のバトルは昨日も繰り返された。

トランプ大統領についてメディアは「分断あおり独断専行」(朝日新聞)と批判する。確かにそうした面がないとは言えないが、トランプ政権になって米社会の分断が始まったわけではない。分断はもともと存在している。米国社会に潜在している人種差別や所得格差、男女差別や移民に対する憎悪感など、分断の象徴ともいうべき現象は当初から存在している。トランプ大統領は彼なりのビジネス感覚でそうした“汚い現実”を必要以上に誇張してえぐり出し、選挙戦を有利に進めようとしているのである。トランプ大統領が登場したから分断が起こったわけではない。もちろん民主党が多数をとったからといって分断が消えるわけでもない。彼らは差別が存在する現実を綺麗な言葉でオブラートに包み込む術を心得ているにすぎない。

マルクス流に言えばトランプ氏は下部構造であり、民主党は上部構造のような存在だ。トランプ氏はビジネスマンとして汚い現実を直視し、これを利用しようとする。上部構造にあたる理念や観念論はこの上もなく貧弱である。ここがトランプ氏のトランプ氏たる所以である。政治の理想や平等性、公平性より汚い現実を突きつけることで利益を得ようとする。これに対して民主党は汚い現実から目を背け、理想的な社会の創造を訴える。心地良い演説で有権者の心を鷲づかみにしたオバマ大統領は、汚い現実をほとんど変えられなかった。上部構造優先の民主党に対してトランプ氏は、下部構造の変革に強烈なパワーを発揮する。もちろん共和党も民主党も上部構造と下部構造に綺麗に分かれるわけではない。双方はかなりの部分で重なっている。だからねじれ国会でも米国は十分前進できる。むしろ問題は下部構造に内在する分断の構造をトランプ政権のせいにし、汚い現実から目を背けるメディアの方にある。