[東京 14日 ロイター] – 三菱UFJフィナンシャル・グループ (8306.T)が、異例のタイミングで年間配当の増配を決めた。背景にあるのは、低迷する株価に対する経営陣の危機感だ。長びく低金利で成長戦略が描けない中で、失われ掛けていた投資家の関心を取り戻せるかどうか注目を集めそうだ。

<異例のタイミングの上方修正と増配>

三菱UFJは13日に18年4―9月期決算を発表し、19年3月期の当期利益見通しを従来予想の8500億円から9500億円に引き上げ、年間配当も従来の1株20円から22円(前年実績は19円)に増額した。

同時に1000億円・2億株(発行済み株式総数の1.52%)を上限とする自社株買いも発表した。

三菱UFJや他のメガバンクグループで、中間期決算発表のタイミングで通期業績を上方修正するのは極めて異例だ。ライバル銀行首脳も「思い切った決断」と驚く。銀行は、下期のリスクを保守的に見積もり、予想を据え置くのが一般的だからだ。

今回、三菱UFJがあえて慣例を打ち破ったのは、株価低迷に対する危機感があったからだと、グループ幹部は打ち明ける。

同社は2021年3月期に連結業務純益(営業純益)1兆5000億円を目指す中期経営計画を今年5月に発表。18年3月期と比べると約20%増となる内容だったものの、市場では「あまりに保守的」(外資系ファンドマネージャー)と受け取られ、翌16日の株価は前日比39円安の698円まで売り込まれた。

同日の株式市場では、運用難に直面するゆうちょ銀行と並ぶ下げ幅となり、三菱UFJのある役員は「中計に対する投資家の評価が低過ぎる」と嘆いた。

<メガを組み入れないことが勝利の方程式>

東証上場会社の配当性向の平均は約30%。地銀でも40%程度はざらだ。こうした中、メガバンクグループの株主還元は低調とされ、「メガは投資家に顔を向けていない。ファンドにはメガを組み入れないことが(運用の)勝利の方程式」とさえ言い放つファンドマネージャーもいる。

今回の増配で、三菱UFJの配当性向は30.3%となり、はじめて30%台に乗る。みずほフィナンシャルグループは33.3%、三井住友フィナンシャルグループは33.9%だが、増配と同時に発表した自社株買いも含めた総還元性向は46.1%となり、三井住友の前年度の総還元性向42.2%を超える。

決算会見で平野信行社長は「株主還元の充実は、主要な経営課題」と明言し、目標にしている23年の配当性向40%に向けて「最初の一歩だ」と強調した。

松井証券・ストラテジストの田村晋一氏は「ポジティブサプライズ」としたうえで、「トップバンクが株主還元でやっと他の大手行や地銀などと同じレベルに追いついてきた」と語った。

三菱UFJの14日の終値は676円で、前日比10円高となった。

布施太郎 編集:田巻一彦