懸案となっていた英国のEU離脱案が、昨日、英閣議で承認された。一連の離脱協議はこれで大きな山を越えたが、その先にまた大きな山が存在していることも明らかになった。要するに山また山の連続である。自由俳句の巨人、種田山頭火の俳句に「分け入っても分け入っても青い山」というのがあった。その昔、山登りをやっていた頃、ちょっとした山でルートを見失い、道無き道の笹藪を歩いたことがある。進んでも進んでも笹藪の連続、なんともしんどい思いをした。英国とEUの離脱交渉を見ていると、なんとなくそんな感じがする。難問また難問のハードな交渉である。一つの課題をクリアーしても次にまたより大きな新たな課題が見えてくる。

交渉しても交渉しても前に進まない時、人間はどうするか?要するに問題を先送りする。今回の合意案も問題の先送りにすぎない。日経新聞によると今回の合意案の柱は、「2020年末の離脱移行期間終了後も懸案の英国とアイルランドの国境問題が解決するまで、英国がEUとの関税同盟に残留する」ということである。ようするに離脱に伴うアイルランドと北アイルランドの国境管理が解決しない限り、英国とEUの関係は現状と同じ状態が続くということだ。これに保守党内の離脱強硬派は反発しており、メイ首相の不信任決議に持ち込む意向を示しているという。英国のEU離脱は関税同盟からの離脱だけではない。とはいえ、最重要事項である関税同盟に残留することになれば、なんのための離脱、と誰でもが聞きたくなる。

メイ首相も気の毒といえば気の毒だ。国民投票を受けて首相に就任。離脱交渉が内閣の最重要案件となったが、2人の強硬派の挟み撃ちにあっていた。一人はもちろん保守党内の最強硬派。保守党だけではない。野党にも強硬派はいる。もう一人の強硬派はEU。こちらは英国の離脱を快く受け入れるわけがない。ハードルを高くしてEUの結束を維持するのは最初から分かっていた。そんな中で交渉の矢面に立たされたわけだから、同情の余地がないことはない。だが、それに答えるのが政治家の力量というものだろう。問題先送りも一つの道かもしれないが、要はその先の結論が明確になっているかどうかだ。どんなに交渉を続けても、離脱にともなう国境管理に妙案などない。時間を稼いで再度国民投票に持ち込むぐらいが関の山ではないか。