EUは25日にブリュッセルで首脳会議を開き、英国の離脱案を承認した。これで英国のEU離脱は加盟各国の議会と英国議会がこの案を承認すればソフトランディングが実現する。時事通信によると離脱案は585ページに及ぶという。中身は①英国からEUへの「手切れ金」支払い②双方の在英、在EU市民の権利保障③20年末までの移行期間設置-などが盛り込まれている。交渉で最大の懸案となった英領北アイルランド問題については、移行期間中に解決策がまとまらない場合、移行期間を最長で2年延長するか、英国全体がEUの関税同盟に事実上残留するか、20年7月までにどちらかを選択することになる。これによって来年3月末に英国がEUを離脱する道筋が見えてきた。とはいえ、依然として行く手には英国議会が立ちはだかっている。まだひと山もふた山もありそうだ。

メイ首相の出身母体である保守党の強硬派は依然としてこの案に反対しているようだ。合意案が議会に上程されれば反対するとしているほか、ジョンソン外相を筆頭にメイ首相の解任を模索する動きもあるようだ。野党労働党もこの案に反対しており、メイ首相とEU首脳が合意した離脱案はいまのところ英国議会で承認される見通しが立っていない。メイ首相は12月中に議会でこの案の承認を取り付ける意向だと言われている。時間的にはまだ多少の余裕がある。議会の承認に向けて残された時間を使って与野党の反対派を説得することになるのだろう。それにしてもここまでしてEUを離脱することが本当に英国の利益に繋がるのか、部外者にはよく分からない。離脱しても英国とEUは貿易問題をはじめあらゆる面でEUとの関係を保ち持ち続けることになる。例えば通商交渉。EUを脱退してEU加盟各国と個別に通商交渉を締結するとなると、気が遠くなるような時間が必要になる。

離脱強硬派はハード・ランディングを求めているのだろうか。それともメイ首相のやり方に反対しているのだろうか。今回の合意案は北アイルランドの国境問題など、主要な問題を先送りしているにすぎない。それもダメだということになれば、ハード・ランディングを強行する以外に道はない。それで保守強硬派は満足するとしても、英国に進出している外国企業はたまったものではない。EUの恩恵がなくなれば外国企業が英国に進出している意味がなくなる。ハード・ランディングは巡り巡って英国の損失になるような気がするのだが、この点に対する保守強硬派の見解はあまり伝わってこない。何れにしても英国のEU離脱は英国内の分断を加速するだろう。トランプ政権の登場によって米国の世論が分断されていることと相通じるような気がする。分断は米英にとどまらない台湾内の新中国派とアンチ中国派の分断も歴然としてきた。どうしてこうなってしまったのだろうか…?