ロシアが25日、ウクライナの艦船3隻に砲撃し拿捕した。この事件に関連してメディアは双方の主張を織り込んだ記事を連日配信している。例えば、昨日のロイター。「ウクライナ政府はロシアによる攻撃を非難。ウクライナには自国を防衛する権利があるとし、軍隊を完全な戦闘態勢に置いた。ポロシェンコ大統領は28日付で全土に戒厳令を発令する方針を表明。発令期間は30日間となる」と伝えた。同時に、ロシア外務省は声明で、今回の事件は対ロシア制裁の一段の厳格化を目的に計画されたものだったとの見解を示した。これに加えてロイターは「ウクライナが米国、およびEUと手を組んで追求しているアゾフ海と黒海でロシアとの紛争を引き起こす政策は、深刻な結果を招くとウクライナに対し警告する」とのロシアの主張も記事にした。

事件は25日に起こっている。時事通信によるとロシア連邦保安局(FSB)は25日、ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を隔てるケルチ海峡で同日、「領海侵犯」があったとして、ウクライナ艦船3隻を拿捕(だほ)したと明らかにした。インタファクス通信が報じたと伝えている。問題はウクライナの艦船が領海侵犯したかどうかだが、領海自体が極めてグレーである。だいたい、クリミア半島自体が極めて微妙な地域である。2014年のウクライナとロシアの紛争でロシアが自国領土に組み入れ実効支配しているが、ウクライナは元々の自国の領土だと主張している。要するにこの地域はどこの国の領海に属するのか明確になっていない。そこを舞台とした領海侵犯である。ウクライナの立場に立てばロシアの主張にはもともと正当性がない、ということになる。

今回の拿捕事件をめぐって英国、フランス、ポーランド、デンマーク、カナダなど西側主要国はロシアに対して、拿捕した艦船と乗組員を直ちに解放するように要求している。これに対してロシアは、「拿捕は国際法、および国内法に厳格に則った措置だったとの見解を示している」。双方の主張は完全に対立している。そうした中で実効支配しているのはロシアだ。ウクライナにすれば自国の領海を航行したら、ロシアによって艦船が拿捕され乗組員が人質になったということだ。こうした状態の中でメディアは双方の主張を並べて配信している。公平、公正、中立という立場に立てばこれが限界なのだろう。では一体、ニュースってなんなのか?ロイターの記事から“真実”を読み取ることはできない。最近、事実関係が曖昧な記事が増えている。ニュース報道はあまりにも“真実”から遠いところで成り立っているような気がする。