• TOPIX企業で最も体制不備が目立つグローバル企業ーアナリスト
  • 報酬について疑問や意見を差し挟むことはなかったー関係者

日産自動車のカルロス・ゴーン前会長逮捕から半月。投資家らは有価証券報告書への虚偽記載を見抜けなかった同社への不信感が拭えず、株価は低水準にある。ガバナンス(企業統治)が機能しなかった背景には、グローバル企業でありながら経営監視体制の整備が遅れたことやゴーン前会長に意見のできない現状があった。

カルロス・ゴーン前会長、Photographer: Junko Kimura-Matsumoto/Bloomberg

「日産はスキャンダル企業となる要素を兼ね備えていた」。ジェフリーズ証券のズヘール・カーン調査部長は、日産の経営体制にかねて警鐘を鳴らしていた。昨年8月のリポートでは、同社が「ガバナンス構築に向けた表面的な改善すらしていない」のは注目に値すると指摘していた。

企業の不正防止と競争力強化に向けたコーポレートガバナンスコードの運用が始まったのは2015年。以来、多くの企業が社外取締役の採用を進めると同時に、社外取締役からなる委員会設置会社に移行。取締役の選任や解任議案を決める指名委員会や役員報酬を決める報酬委員会を設置してきた。しかし、日産はそのどちらにも対応してこなかった。

昨年8月時点で、同コードが「2人以上選任すべき」とする独立社外取締役を採用していないグローバル企業はTOPIX採用500社のうち日産1社だけだった。同社はその後、排ガス検査の測定値改ざん問題などが明らかになり、今年6月になって元レーシングドライバーと、経済産業省退任後に複数企業の社外取締役を歴任してきた元官僚を登用した。

カーン氏は、この2人を「経営判断に異議を唱え緊張感が保てる経歴かは定かではない」と疑問視。指名委員会を設置していない点でも、また、ゴーン前会長以外の取締役がほとんど自社株を保有していない点でも、「過去のスキャンダル企業に共通する条件を備えている」と述べた。上場企業は中期的な企業価値向上への貢献を求める意味で、役員の持ち株比率を引き上げる傾向にある。

西川広人社長、Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

日産の西川広人社長は前会長が逮捕された先月19日、記者会見で自社のガバナンスは名ばかりで形骸(けいがい)化していたと認めた。同社の株価は翌20日に前日比5.5%下落。その後徐々に値を戻しているものの、逮捕前の水準にはなお届いていない。

虚偽記載を把握できず

ゴーン前会長は、過去5年間にわたり自身の報酬総額を過少に記載していた金融商品取引法違反の疑いで逮捕された。虚偽記載を会社が把握できなかった理由について、事情に詳しい関係者は、経理部門が有価証券報告書の開示内容に関知することはなく、把握していたのは取締役会だったという。しかし、取締役会で実際に協議されたかについて疑問や意見を差し挟むことがなかったと語った。

日産自動車広報担当のニコラス・マックスフィールド氏は、関係者らの指摘する内容について、コメントしないと電話取材に答えた。報酬委員会を持たない日産は、取締役会議長が第三者の報酬ベンチマークなどを参考に、代表取締役と協議の上、役員報酬を決定すると有価証券報告書に記している。

企業統治への取り組みが遅れた理由には、ゴーン前会長が日産を経営危機から救った実績を持つこともある。ニッセイ基礎研究所の江木聡主任研究員は、「ゴーン氏のチームの人たちはガバナンスの充実には権力を集中する方がいいと考えていると感じた」と話す。卓越した経営者への権限集中は効率的だが、結果として株主に代わり経営を監視するはずの取締役会は機能していなかったと述べた。

日産は有価証券報告書で、「コーポレート・ガバナンスにおける最も重要なポイントは経営陣の責任の明確化」と述べ、効率的かつ機動的な経営を行うために取締役会のスリム化をうたっている。事情に詳しい関係者によるとゴーン前会長は容疑を否認、4日現在、東京拘置所に拘留されており弁明の機会を得られていない。