華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)が釈放されたが、米中の貿易摩擦をめぐる戦いが終わることはなさそうだ。米政府は副会長逮捕と貿易摩擦は別問題と説明するが、誰一人そんなことは信じていない。現にウォールストリートジャーナルは中国政府が「中国製造2025」の一部の目標達成時期を25年から35年に先送りすることを検討していると伝えている。トランプ政権が標的とする「中国製造2025」の柱は5Gであり、この技術で世界の最先端を独走しているのがファーフェイだ。貿易赤字を理由にトランプ政権が仕掛けている貿易戦争は、10年後20年後を展望した技術戦争であり覇権戦争だ。貿易問題と副会長の逮捕は無関係どころか、貿易戦争の中核そのものといったほうがいいだろう。
中国もそんなことは先刻承知しているだろう。民間企業であるファーウェイが中国政府の意図を忖度して自社製の通信機器に盗聴装置を仕込んでいるかどうかわからない。ただ、朝日新聞によると中国の法律では、安全保障を理由とした中国政府の要請に対し、民間企業は協力する義務があるのだそうだ。孟副会長の父親でありファーウェイの創業者かつ最高経営責任者の任正非氏(74)は大卒後、人民解放軍に入隊し、建築関連のエンジニア兵をつとめていたという経歴の持ち主である。中国政府とツーカーの関係にあったとしても不思議ではない。米国も相当前からファーウェイの動向を注視していたというから、今回の逮捕劇の根は相当に深いとみたほうがいい。米中の貿易戦争は表面的には貿易赤字をめぐる対立だが、一皮むけば10年後、20年後の覇権をめぐる争いだ。
中国も引くに引けない。10年後、20年後に世界の覇権を握るためには何が必要か。AIでありビックデータであり、通信機器の高速化だ。一点突破全面展開が中国の得意とする戦い方である。AIもビックデータも国家権力が総力をあげて開発をリードしている。そしてその中核を担っているのが通信機器と5Gだ。ファーウェイは政府と一体となって莫大な資金をこの開発に注ぎ込んでいる。宇宙からの敵国を監視するためには超高速の通信機器が欠かせない。宇宙を制するものが近い将来覇権国になる。「中国製造2025」はそうした時代を展望した覇権構想でもある。その構想を中国は10年先送りすることで米国と妥協を図ろうとしている。これが事実かどうかわからないが、たとえ貿易戦争が穏便に収束したとしても米中の戦いはこの先も果てしなく続くだろう。その間で技術大国を標榜する日本は生き残れるのだろうか…。