ゴーン容疑者らの身柄拘束と保釈の流れ

 日産自動車の有価証券報告書に役員報酬を過少記載したとして金融商品取引法違反容疑で再逮捕された前会長、カルロス・ゴーン(64)と前代表取締役、グレッグ・ケリー(62)の両容疑者について、東京地裁は20日、東京地検の勾留延長請求を却下する決定を出した。東京地検特捜部の事件で勾留延長請求が認められないのは極めて異例。地検は同日、決定を不服として準抗告したが、認められなかった。ゴーン前会長らが21日以降に保釈される見通しが高くなった。

 2人は2010~14年度のゴーン前会長の役員報酬計約50億円分を記載しなかったとして先月19日に逮捕され、今月10日に起訴された。さらに同日、15~17年度の計約40億円分も記載しなかったとして再逮捕されていた。

 20日は再逮捕分の10日間の勾留満期で、地検は21日から10日間の勾留延長を請求していた模様だ。今後、却下決定を出した裁判官とは別の同地裁裁判官3人が合議で準抗告を審理し、却下決定を支持した。

 地裁は却下理由を明らかにしていないが、最初の逮捕が5年分の容疑だったのに対し、再逮捕は3年分だった点などを考慮したとみられる。

 ゴーン前会長らは容疑を否認し、周囲に勾留への不満を漏らすこともあったとされる。前会長が国籍を持つフランスなど海外のメディアも、勾留期間や取り調べの際に弁護士の立ち会いがない日本の刑事手続きを批判的に報じる動きが出ていた。

 今後、却下決定が確定すれば、前会長らを容疑者として勾留できなくなる。だが、起訴後の被告の立場での勾留は続いており、そのままでは保釈されない。改めて弁護人が保釈請求し、裁判所が認め、前会長らが保釈保証金を納付した場合に保釈されることになる。一方、特捜部の再逮捕分の捜査は継続するが、年内にも追起訴するとみられる。【巽賢司、遠山和宏、金寿英】

実質損害、発生していないことを考慮

 元東京地検特捜部長の宗像紀夫弁護士の話 2度の逮捕容疑はいずれも有価証券報告書への虚偽記載であり、裁判所は2度目の逮捕も勾留期間を目いっぱい使って調べる必要はないと判断したのだろう。そもそも今回の事件は、逮捕を一度で済ませ、残りの罪は追起訴するという手法も取り得たと考えられるからだ。さらには、日産側が一方的な被害者と言い難い点や、実質的な損害が現時点では発生していない点なども考慮したのではないか。

海外の厳しい目を意識か

 元東京高裁判事の木谷明弁護士の話 特捜部が手がけた事件で勾留延長が認められないのは極めて異例で、東京地裁は思い切った判断をしたと言える。長期にわたって容疑者の身柄を拘束して自白を引き出す日本の捜査機関や、そうしたやり方を追認してきた裁判所に対する海外の厳しい目を意識したのかもしれない。「外圧」がなければ動かないのは残念だが、これを契機に捜査手法や司法制度の見直しが進んでほしい。

逃亡の恐れなければ速やかに保釈を

 白取祐司・神奈川大法科大学院教授の話 特捜部の肝いりの事件で勾留延長を認めないのは勇気がいる決断。裁判官を評価したい。本来、勾留延長は例外的な手続きで、逃亡や証拠隠滅の恐れがない容疑者は速やかに保釈されるべきだ。だが、日本では捜査機関がいろいろな理由を付けてほぼ自動的に延長されてきた。近年、こうした刑事司法のあり方への批判もあってか、保釈を認めるケースが増えつつある。今回の決定もその延長線上にあるのではないか。