この週末、米国はロシアとの間で締結している中距離核戦力(INF)全廃条約の履行停止を表明した。その旨ロシアにも通告した。ロシアが米国の要求を飲まなければ6カ月後にこの条約は廃棄される。これを受けてロシアも同日、「米国は何の証拠も示さず条約を破棄すると言っている。条約に違反しているのは米国であり、ロシアもこの条約を即時廃棄する」と表明した。両国が相手国に責任を押し付けて条約の廃棄を打ち出したのだから、もはや再考の余地はないのだろう。米ロの核軍縮を支えてきたINF条約はかくして6カ月後に廃止される。その後どうなるのか、新聞を読んでもよくわからない。冷戦がスタートするとか軍拡が始まる可能性を示唆する論調が目立つだけだ。

INF条約の破棄に向けた米ロの主張は真っ向から対立している。どちらの言い分が正しいのか、我々一般庶民はメディアを通して知るしかする方法がない。すべての新聞を精密に読んだわけではないが、どこにもその答えは見つからなかった。メディアの多くは両国の主張を紹介しているだけである。どちらの言い分が正しいのか、悪いのは米国かロシアか、断定している記事は見当たらなかった。時事通信によると米国は2014年、ロシアが条約に抵触する地上発射型巡航ミサイル「ノバトール9M729」の飛行実験を行ったと初めて公表。17年には同ミサイルが配備されたと批判したとある。これだけ読むと非はロシアにありそうに思う。ロシアは昨年12月、超音速のミサイル兵器アバンガルドの実験にも成功している。

このミサイルは「音速の27倍(マッハ27)で飛行し約6000キロ離れた標的に命中した」(毎日新聞)という。INFが禁止しているのは飛行距離が500キロ〜5500キロの中距離ミサイルである。開発も配備も禁止されている。6000キロという距離は微妙だ。ロシア外務省は「米国がもたらした脅威に対し、鏡のように対抗する権利を有する」と主張。中距離ミサイルの開発、製造、配備を進めていく方針を示している。読者が知りたいのは難しいことではない。どっちが悪かということだが、メディアの報道は一向に痒いところに手は届かない。その代わりに軍拡競争が始まるとか、サイバー戦争が始まるとか脅威論をあおる。個人的には中国やイラン、北朝鮮といった国々が参加していないINFはあまり効果がないと思う。米ロのINF条約廃棄で多国間の条約交渉が始まることを願いたいのだが、多分、そうはならないだろう。