英国のメイ首相が初めてEU離脱延期の可能性に言及した。混乱し対立と対決を繰り返してきた英議会がこれによって平常化すれば、「合意なき離脱」の可能性はなくなる。ようやくというか、やっとの思いで英議会はここにたどり着いた。とはいえ、問題が解決したわけではない。議会が賛成すれば「合意なき離脱」の可能性はある。だが、それは理論上あり得るという程度の可能性にとどまる。もっとも可能性の高いシナリオは離脱延期だろう。メイ首相は短期間に、かつ、1回だけの延長を主張している。6月末までの3カ月というのが一番妥当な線だ。だが、ここで疑問が湧く。「延長して合意は得られるのか」。個人的には正直言って非常に難しいと思う。アイスランドと北アイスランドの国境管理に特効薬などない。

延長後も英議会の混乱は続くだろう。離脱強行派は国境管理を行わないことを受け入れるだろうか。国境を管理しないということは、英国がEUの関税同盟にとどまるということだ。主権を回復するために離脱するということは、関税同盟を脱退するということだ。脱退すれば国境の物理的な管理が必要になる。離脱期間を延長してもこの問題が解決するとは思えない。だからメイ首相は「離脱期限の延期は問題の本質的な解決にはならない」と主張してきた。その通りだろう。3月29日という離脱期限を延長しようがしまいが、英国にとってはEUとの合意案を受け入れるしかない。EUは再交渉を拒否している。延長しても合意の中身が大幅に変更されることはないだろう。EUは大幅な変更を断固拒否する。だとすれば何のための延長なのか。

問題はおそらくそこにはない。延長を決めるといいうことは離脱そのものの見直しにつながるということだ。ロイターはこの日次のように伝えている。「野党・労働党が新たな国民投票の実施を主張していることなどから、離脱期限が延期されれば、離脱が取りやめになる可能性もある」と。離脱延期の本質はここにある。再度国民投票を実施する可能性が高まるということだ。EUとの合意形成に失敗した英国は、議会の混乱が象徴するようにど壺にはまってしまった。ここを抜け出す唯一の道は再度国民の判断を仰ぐことしかない。再投票の結果離脱派が勝利すれば、その時は「合意なき離脱」に突き進むしかない。メイ首相が頑なに離脱延期を拒否していたのは、再投票実施を懸念していたのではないか。そのメイ首相が折れた。道は再投票しかないように思うが、どうだろうか・・・。