ECBのドラギ総裁が突然金融政策の変更に打って出た。きのうの理事会で主要政策金利を予想通り据え置いた。その一方で、年内とみられていた危機後初となる利上げの時期を来年に先延ばしした。さらに銀行向けの超長期の低利融資(TLTRO)を再び実施すると発表した。これは明らかに金融緩和政策である。英国のEU離脱や米中の貿易摩擦問題などを背景に世界の景気は、今年の後半にはピークアウトするというのが一般的な見方である。とはいえ、足元の経済は緩やかに回復しており、EU経済も短期的には回復基調をたどるとみられていた。だから昨年来ECBは利上げを視野にいれていたのである。その利上げから一転、ドラギ総裁は利下げを展望し始めた。これはサプライズである。
ロイターはINGのエコノミスト、カールステン・ブレゼスキ氏のコメントを引用している。今回の決定について同氏は、「ECBは明らかに先手を打ち、金融政策スタンスの根拠のない引き締めを防ごうとした」との見解を示している。補足すれば「EU経済圏の景気の落ち込みは予想を超えたスピードで始まっている。だから先手を打って金融引き締め政策(利上げ)にストップをかけた」ということだろう。それだけではない。銀行向けの超長期低利融資(TLTRO)を再び実施することによって、実質的な緩和政策に転じたのである。予想を超えた落ち込みが事実なら、ドラギ総裁の決断は実体経済の急激な悪化の「後追い」にすぎず、景気の後退に備えた「先手」ではない。
米国も最近金融引き締めから金融緩和への政策転換が議論を呼んでいる。景気に敏感に反応しているのはトランプ大統領。パウエルFRB議長を批判するだけでなく、露骨に利上げの停止を求めている。この圧力に屈したわけではないがパウエル議長は2月末に行われた議会証言で、「利上げには忍耐強く対応する」と実質的な利上げ見送り発言を行った。そのうえ資産買い入れの年内停止に言及している。3回か4回か、昨年末まで議論されていた今年の利上げ回数が1〜2回以下に修正されたうえ、量的な引き締め政策の停止が模索され始めているのである。そして昨日は、ブレイナードFRB理事が「リスク上昇や支出鈍化の兆しがあるため、FRBは経済見通しを変更せずとも利上げ予想を引き下げるべきとだ」と述べている。こうした動きから見えてくるのは、世界経済は予想以上に深刻だということだ。