英国のメイ首相がEUとの合意案が成立すれば辞任するとの意向を表明した。否決されたら辞任というのが一般的だが、EU離脱を巡って混迷する英国では逆になる。要するにメイ首相は自らの辞任と引き換えに妥協案の成立をはかるという究極の賭けに打って出たということだ。これで合意案が成立するとすれば、離脱強硬派はこれまで一体何に反対してきたのだろうか。首相をやめれば賛成、辞めなければ反対。これはEU離脱を求めた3年前の国民投票と関係ない。要するに保守党内の強硬離脱派は、メイ政権打倒という低レベルな権力闘争を戦っていたということになる。メイ首相が辞めれば、離脱しなくてもいいのだろうか。

メイ首相の声明は「私は保守党の皆さんの意向をはっきりと聞いた。私は欧州連合(EU)離脱交渉の次の段階において新しいアプローチ、そして新しいリーダーシップを求める要望があることを知っている。私はそれの妨げにはならない」(日経新聞)としている。これが辞任の根拠だ。党内の辞任要求に従うということだろう。一方、辞任させる根拠は何か。ニュースのなかにヒントらしきものがあった。ロイターによると「保守党内には、メイ氏がより厳しい姿勢でEUと交渉しなかったため、混乱を招いたとの声が多く聞かれる」とか、議員の1人は「避けて通れなかったことで、メイ氏は正しい決断を下したと感じている。メイ氏が党内の空気を実際に読んだことは驚きだったと話した」という。

なるほど、そういうことか、という気がしないでもない。だが、よくよく考えれば離脱強硬派が陥っている混乱の原因がここにある。「メイ首相は厳しい姿勢で交渉しなかった」というが、EU側にすれば「英国の厳しい要求は絶対に受け入れない」ということになる。強硬派の主張(実はよくわからない)を受け入れればEUそのものが崩壊の危険にさらされる。だから離脱する側に有利な合意案などあり得ない。離脱強硬派は最初から合意なき離脱を目指すか、ほどほどのところで妥協する以外に選択肢はなかったのである。メイ首相の辞任の見返りに法案に賛成するというのはある種のごまかしだ。それは政治的な敗北でもある。メイ首相は29日に合意案を再度議会に提出する予定だという。結果次第で英国政治そのものが、ある種の“終焉”を迎えるのではないか。そんな気がする。