先週の木曜日(18日)、自民党の萩生田光一幹事長代行が消費税の引き上げに関連して、「6月の日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)の数字をよく見て『この先危ないぞ』と見えてきたら、また違う展開はあると思う」(時事ドットコム)と述べ、物議を醸した。インターネット番組で言及したものだが、おそらく本人が想定していた通りの物凄い反響が巻き起こった。この時「増税をやめるなら国民の信を問うことになる」との考え方も示しており、ダブル選挙の思惑も重なって波紋が広がった。そして翌日、「政治家として私個人の見解を申し上げた」と釈明した。安倍首相の意向を踏まえた発言との見方を否定したのだ。これに対し、野党側は納得せず、政府の経済情勢認識などをただすため、衆参両院予算委員会の開催を要求した。これが荻生田発言に関する一連の経緯である。

荻生田氏は安倍首相の側近である。安倍首相の意向を踏まえたかどうかはどうでもいいことで、首相の意を忖度した、あるいは首相に代わって世論の動静を推し量るためにアドバルーンを打ち上げた。そんな意図を持った発言であることは間違いない。民意のありかを探る発言としてはかなり意図的な発言であり、こういう発言をこういうタイミングで行えるということが、この人の一つの政治力なのだろう。この発言が引き起こした批判の数々を冷静に見てみると面白い。とりわけ野党の多くは荻生田氏の発言を一刀両断に切り捨ててはいるものの、消費税の導入延期に反対する人はほとんどいない。「アベノミクス破綻」を象徴する言動だとし攻撃しているだけである。最近話題のMTT推進論者、NY大学のケルト教授なら「消費税の引き上げはデフレを招く。財政赤字に怯むな」というだろう。荻生田発言はいろいろな意味で微妙である。

アベノミクスが足踏みしている原因は何か。簡単だ。デフレ脱却の目標は評価できるが、その一方で財政再建というデフレ政策の誘惑に負けていることである。アクセルを踏むと同時にブレーキも踏んでいる。これでは車は前に行かない。経済政策には一本筋の通った考え方が必要である。バブルが崩壊したあと不良債権の処理に失敗した政府・自民党は「失われた20年」を作り出した。あとを受けた民主党政権は財政再建路線をひた走り、デフレを促進した。そのあとを受けて登場したのが安倍政権である。異次元緩和と呼ばれた金融緩和政策を推進し、行き過ぎた円高にストップをかけるまでは良かった。しかし、黒田日銀総裁は異次元緩和を推進する一方で財政の健全化路線を主張した。冷え切った消費者心理は超金融緩和によって癒せると考えたのだろう。だが、現実は安倍・黒田路線に活路がないことが時間の経過とともにはっきりしてきた。荻生田発言が二股路線の衣替えを意図しているとすれば、傾聴に値するのだが……。