北朝鮮の金正恩委員長がきのうロシアのウラジオストクに到着した。毎度のことながら特別仕立ての列車を使っている。ロシアは盛大な歓迎式典で出迎えた。金委員長が外国を訪問するたびに繰り広げられる光景だ。これをみながらいつも思うのは、どうして小国の独裁者がこれほど歓迎されるのかということだ。強権的で国民に多大な犠牲を強いる独裁者。国民が窮乏化する中で、自らはヌクヌクと金満家のような生活をしている。歩くことさえ容易でないように見える肥満体質が、彼の悪辣な日常生活を映し出している。おまけに反抗する者を平気で抹殺する。義理の兄である金正男氏を殺害したのは北朝鮮の諜報員である。その異常な金委員長に大国の指導者が媚を売っている。北朝鮮の“スポークスマン”は韓国の文在寅大統領だけではない。

これは金委員長の政治的な手腕なのか、核兵器を所有しているせいなのか。はたまた北朝鮮の地政学的ポジションのなせる技か。素人にはよくわからない。朝鮮半島の非核化のためには、度を超えた歓迎の宴が本当に必要なのか。政治的な儀式のなんと腹立たしいことか。それにしてもやり過ぎではないか。米中ロという世界の大国が金委員長を持ち上げれば持ち上げるほど、金一族はつけ上がる。「体制の保証の見返りに非核化する」、なんとも白々しい言い草である。それでも世界の大国の指導者が先を争って金委員長に媚を売る。当の独裁者は大国の間を泳ぎながら己の権力基盤を強化する。その裏で2500万人に及ぶ北朝鮮の人民は塗炭の苦しみを味わっている。米中ロの交わることのない独善的思惑が、金正恩という異常な指導者を増長させている。

ロイターはきのう、「北朝鮮、金委員長の右腕・金英哲氏を解任=韓国聯合ニュース」というニュースを流している。金英哲氏は金委員長の右腕で、ポンペオ米国務長官のカウンターパートだ。ベトナムでの第2回米朝首脳会談を取り仕切った。その金氏が解任されたようだ。首脳会談決裂の責任を負わせたのだろう。うまくいけば自分の手柄、失敗すれば他人の責任。絵に描いたような独善的な独裁者の振る舞いである。その金委員長を迎えてプーチン大統領は6カ国協議を提案するという。北朝鮮問題で指導力を発揮したい同大統領の思惑が見え隠れしている。悪いのは金委員長だけではないかもしれない。悪人同士がお互いを利用しながら自らの政治基盤の強化を計ろうとしている。北朝鮮の金委員長をみていると、自分の感覚が少しずつ異常になっていくような気がする。