米中の貿易摩擦に関する中国の対応は“冷静”なのか、“冷静を装っている”のか。トランプ大統領のツイートに端を発した今回の騒動で動向が注目されていた中国の劉鶴副首相は、予定通り訪米した。ロイターによると中国外務省の耿爽報道官は、関税で問題を解決することはできないと指摘し、米国側の一連の発言は、その気質から察するに話し合いのプロセスとの見方を示した。「見解の相違があることは普通のことだ。中国は問題を避けることはせず、真摯な姿勢で協議を継続する考えだ」と述べた。中国が態度を後退させたとの報告を聞いたトランプ大統領は、「(合意するのが)遅すぎる」と感情的に反発、関税を引き上げるとツイートした。それに比べると中国側の対応は冷静にみえる。

トランプ氏が強気に転じた裏には順調に回復する米経済がある。昨年末から今年の年明けまで停滞した米経済は、3月ごろから回復基調に戻りつつある。それを象徴するのが株価。株価の推移に一喜一憂しているトランプ大統領が、NYダウが2万6000円台を回復したあたりから急に強気になった。経済の好転が貿易交渉での強気を支えている。一方の中国、世界第2位の経済大国として世界経済を引っ張っている。4月25日に開催した第2回シルクロード経済圏構想(一帯一路)国際会議で習近平主席は、「旗幟(きし)鮮明に保護主義に反対しなければならない」(時事ドットコム)と出席した各国首脳に呼び掛けた。国際的に批判が強まっている一帯一路だが、米国第一主義が逆に中国の覇権に向けた思惑を薄めている。

再選に向けて強気なポーズを見せたいトランプ氏、一方の習近平氏も国内向けに弱腰とは見られたくはない。お互いのスタンスが貿易交渉の最終場面でぶつかっている。それが現在の騒動の最大の要因ではないか。そんな中で劉鶴副首相は“冷静を装いつつ”ワシントンに向かい、ライトハイザーUSTR代表は「中国は譲歩する」と読んでトランプ大統領の怒りを引き出した。どちらも冷静に情勢を分析した上で、“瀬戸際ディール”に打って出た。こんな解釈は無理筋だろうか。国際政治のシナリオとしてはあまりにもリスキーな選択だが、そんな仕掛けの中で最終局面を迎えているとすれば、貿易交渉の決裂はないだろう。あるとすればちょっとした言葉の行き違いといった突発的な出来事。だが両首脳が置かれた状況から推測すれば、決裂は避けられそうな気がする。