先週行われた米中の貿易摩擦に関連した閣僚級協議は、決裂は回避したものの協議の継続を約束するにとどまった。そして米国は、突然翻意した中国の責任を問うて2000億ドル相当分の中国製品の関税を10%から25%に引き上げた。あわせて残りの3250億ドル相当分にも25%の関税を課す検討に入った。こちらは手続き完了までに2カ月程度かかると見られている。中国に残された時間はこの2カ月程度ということだろう。6月に大阪で実施されるG20の首脳会議に合わせ米中のトップ会談を行う。これが想定される最も現実的な日程か。大阪G20は6月28日、29日に開かれる。すでに2カ月を切っている。この間に米中はどこまで歩み寄れるか。

米中の貿易協議で不思議なのは、一旦合意した文書に中国が修正を求めたことである。この動きは中国が突然、一方的に求めたと報道されている。ロイターによると中国の修正要求は5月上旬に北京で開かれた閣僚級協議の席だった。中国はここで知的財産権侵害や米企業に対する技術移転の強制禁止に関する法整備について、それまでの約束を撤回したという。さらに赤字解消に向けた輸入の拡大についても、現実的な数字に変更するよう要求したという。理由は合意文書がいずれも「中国側の譲歩を印象付ける」(劉鶴副首相)というもの。おそらく合意文書を巡って中国国内で習近平主席に対して「弱腰」との批判が強まり、中国としては修正を求めざるを得なくなったのだろう。この間の経緯についてはいまのところほとんど報道されていない。

新華社の報道によると中国側の要求は①追加関税の全廃②輸入拡大の現実的な数字目標の設定③バランスの取れた合意文書の作成ーの3点とされる。トランプ大統領をはじめ米国側はこれまで、再三にわたって「交渉は極めて順調」と繰り返してきた。こうした報道を受けて交渉の先行きを楽観視する向きが多かった。だが先週明らかになった現実を見る限り、米中の交渉は「楽観」とは程遠いものだったのではないか。もっと言えば、多くの時間とエネルギーを割いて継続さてきた交渉は、具体的な成果がほとんどなかったと言ってもいいくらいだ。だとすれば、不調に終わった交渉の責任は一方的に中国にあるのだろうか。米国は中国に責任を押し付けて関税上乗せに動き、「瞬時に報復措置を発動する」としていた中国は今のところ音沙汰なし。情勢は中国に非があるように見えるが……。