[ブリュッセル 27日 ロイター] – 欧州連合(EU)で23─26日に実施された欧州州議会選で、EU強化を訴える勢力が3分の2の議席を堅持した一方で、反EUの極右およびナショナリズム勢力が議席を大きく伸ばすなど、EUの分断が一段と進んだこと受け、ユーロ圏の統合深化が失速する可能性があるとの見方が出ている。 

今回の欧州議会選では気候変動が大きな争点の1つとなり、緑の党が欧州議会で第4党となった。ただユーロ圏当局者は「選挙では気候変動や移民・難民問題などの社会問題が大きな争点となった一方で、ユーロ圏の統合に関する問題は注目されなかった」と指摘。「ユーロ圏の統合を巡る方針は6月にEU指導部により決定されるため、統合を巡る取り組みは先送りされる公算が大きい」と述べた。 

ユーロ圏財務相はこれまで、ユーロ圏共通予算のほか、共通の「欧州預金保険スキーム(EDIS)」について討議を重ねてきた。ただ現在は警戒すべき危機も、対応すべき政治的な案件も特に見当たらないため、ユーロ圏当局者は、ユーロ圏共通予算は当初目標とされていたストレス下での経済支援ではなく、投資促進を主眼にした小規模なものにとどまるとの見方を示している。 

<共通予算はマクロン仏大統領の弱体化で遅延> 

ユーロ圏共通予算を巡っては、フランスのマクロン大統領が、欧州中央銀行(ECB)の金融政策を補完する財政政策的な役割を果たすべく大規模なものにする必要があると主張。これに対しオランダやドイツのほか、北欧諸国数カ国が、共通予算は投資と加盟国間の統合を支援する小規模なものにとどめるべきとの立場を示していた。 

ただフランスでは、今回の欧州議会選でマクロン大統領率いる与党、共和国前進(REM)の得票率がルペン党首率いる反EUの極右、国民連合(RN)の後塵を拝しており、当局者はマクロン氏はユーロ圏共通予算を巡る討議で強気に出られないと予想。「マクロン氏の力は弱まったため、ユーロ圏共通予算の進展は一段と遅延する」と述べた。 

<預金保険スキームはイタリア懸念が重し> 

欧州預金保険スキームについては、脆弱性が指摘されるイタリアの銀行の預金を保証せざるを得なくなるなどとして、ドイツが強硬に反対していた。 

イタリアでは今回の欧州議会選でサルビーニ副首相が率いる「同盟」が勝利。イタリアの公的債務が増大するなか、連立政権の一角を構成する同盟はEUの財政規律の改正を提唱している。 

ユーロ圏当局者は「イタリアに対する信頼は一段と低下するため、欧州預金保険スキームの進展も一段と遅延する」と予想。「サルビーニ氏(が率いる同盟)の躍進を受け、多くの北欧諸国は欧州預金保険スキームを含むユーロ圏の統合深化について、イタリアが財政状態を是正するまで延期する必要があるとの見解を示す可能性がある」との見方を示した。 

シンクタンク、ブリューゲルのガントラム・ウルフ所長は「イタリアはユーロ圏の中核国の1つであるため、イタリアで起こることはユーロ圏全体に影響を及ぼす」と指摘。「同盟は方針を緩和させ、サルビーニ党首はもはやユーロ圏離脱は提唱していない。ただ同氏は財政規律の一段の緩和を求めており、このことはEUが直面する課題となる」と語った。 

(Jan Strupczewski記者)