米中貿易摩擦が深刻化するなかで中国はあす(4日)、天安門事件30周年を迎える。1989年6月4日、民主化を求めて天安門広場に集まっていた学生を主体としたデモ隊を、中国政府は強制的に排除した。それも人民軍を投入した武力排除である。中国政府の公式見解によるとこの時の死者は319人とされている。だが、当時学生リーダーの一人だった王丹氏によると「死者は2000人を超える」(時事通信のインタビュー)としている。どちらが正しいのか事実は定かではない。だが、大半の人は王丹氏の主張が正しいと感じているだろう。人民軍が人民に銃口を向けたのである。この事件を契機に中国は共産党の一党支配体制を強化し、予想を超えるスピードで経済発展したのである。

30周年を迎えて日本のメディアはこの事件を振り返る記事を流している。良好になりつつある日中関係に配慮しているのだろうか、メディアの記事はなんとなく抑制的な気がする。時事通信によると、1日に明治大学で開かれたシンポジウムに出席したコロンビア大学のアンドリュー・ネイサン教授は、「民主化運動の武力弾圧を強く支持するなど強硬論を唱えた内部講話の内容を明らかにした」。それによると「徐向前元帥は事件について『国内外の反動勢力が相互に結び付いた結果であり、社会主義の中華人民共和国を転覆させ、西側大国のブルジョア共和国の属国になるものだ』と強調。聶栄臻元帥は趙氏に触れて『政治的陰謀と野心をあらわにし、われわれを攻撃している』と批判した」という。趙氏とは当時の趙紫陽総書記のことである。

その後の中国は共産党一党独裁による国家資本主義の道を歩んでいる。そして来るべき覇権を巡って米国と壮絶な貿易戦争を戦い抜こうとしている。その頂点に立つ習近平国家主席はつい最近、「長征」という言葉を使って中国人民に「長く苦しい苦難を乗り越えよう」と呼びかけた。ネイサン教授は当時、楊尚昆国家主席は「趙氏が総書記に就任して以降、(党最高指導部)政治局常務委員会には『核心』(突出した指導者)がいなかった」と発言。これを参考に習主席は自らを“核心”とする独裁権力を確立したと指摘する。そして、いま米国と貿易戦争を戦い抜く覚悟を固めようとしている。トランプ大統領といい、習近平主席といい、二人の“特異”な指導者のもとで世界中が迷惑を被っている。