MMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)の教科書が、発売2カ月で売り切れになった。ブルームバーグ(BB)が伝えている。教科書は大学生を対象にしたもので、この理論を主導しているニューカッスル大学(オーストラリア)のビル・ミッチェル、マーティン・ワッツ両氏と、バード・カレッジ(米ニューヨーク州)のランダル・レイ氏の共著。全体で600ページに及ぶ大著だが飛ぶように売れているという。日本語に翻訳されればとトマ・ピケティの「資本の論理」同様大ベストセラーになるだろう。出版元のマクミランは増刷する予定だという。MMTの火付け役ともいうべきAOC(アンドレア・アオカシオ−コルテス)はこの本を持って弟と一緒に写った写真をネット上に配信している。

この本の題名は「マクロエコノミクス」。南北のアメリカ大陸を表紙にしている。本は飛ぶように売れているのだが、BBは教科書として使われることはないだろうと予言している。というのもMMTを巡っては米国の主流派経済学者をはじめFRB議長、著名経済人などがこぞって批判。元財務長官のサマーズ氏はMMTが国債の無制限増発を容認していることから、「フリーランチ」と激しく攻撃している。日本でも麻生財務大臣が「財政規律がなくなる」と警戒感を強め、黒田日銀総裁は「極端な理論」と一蹴している。ことほどさようにMMTを取り巻く四囲の情勢はよろしくない。にもかかわらず、この教科書が発刊早々から品切れ状態というから面白い。このギャップは何を意味するのだろうか。

主流派の多くが依拠しているのは新自由主義経済。その嚆矢となるのはレーガン大統領。減税すれば税収が増えるというラッファー教授の理論を採用してレーガノミクスを始めた。当時この政策は「呪術経済政策(ブードゥー・エコノミー)」と揶揄された。その政策がいまや世界中で採用されているのである。経済政策や理論は批判が大きいほど実効性が高いのかもしれない。MMTが二匹目の柳の下の泥鰌になるかどうかわからない。だが、トランプ大統領の減税に伴う財政赤字の拡大、バブル崩壊後の日本の国債増発などはMMTの理論を実践しているようにも見える。MMTの主導者の一人であるニューヨーク州立大学のケルトン教授は日経新聞のインタビューに、「日本はMMTを実証している」と答えている。叩かれても支持者が増えるMMT。その原因は主流派による経済運営が世界中で失速しているという事実だろう。