トランプ大統領と金正恩委員長の3回目の会談が板門店で行われた。トランプ大統領のツイッターによる呼びかけに金正恩氏が応じたもので、「ツイッターをみて驚いた」というのは本音か出来レースか。大阪G20サミットも、この突然の“面会”で霞んでしまうほどのド派手な政治ショーである。派手な割に中身がないのもトランプ・ディールの特徴で、それでも世界中のメディアがこちらもド派手に報道している。トランプの選挙戦略にまんまと引っかかったようなものだ。フェイクニュースと批判されているメディアに、選挙目当てのディールを批判する反骨精神はどこにも見当たらない。金正恩委員長は2500万人の北朝鮮の人々を路頭に迷わせ、意に沿わない人々を謀殺する独裁者。極悪人をヨイショするトランプ大統領にも文在寅(ムンジェイン)大統領にも、ほとほとうんざりする。

トランプ大統領の“ディール”は、すべてが来年の大統領選挙を意識しているとみていいだろう。メキシコからの移民、難民をめぐって同大統領はメキシコに関税を課すと脅迫した。二国間交渉でこの課税はなんとか回避されたものの、移民問題を解決するために関税を課すと脅迫する同大統領のやり方は明らかに常軌を逸している。同じ手口は至る所にみられる。米国とEUの貿易アンバランスの解消に向けてNATOの不公平な分担金題を持ち出した。同じことが現在日本を対象に安保条約で起こっている。中国では貿易摩擦と並行してファーウィをブラックリストに乗せて取引を停止した。そのハーウェイに対する禁止措置を、国内企業の反発を受けて米中首脳会談を機に一部解除した。脅したりすかしたり、タイミングをみて緩めたり、厳しくしたりの繰り返し。忙しいことこの上ない。

韓国の文大統領は今回の米朝会談について「大統領の大胆な提案により、歴史的な対面が実現した」と評価する。確かに大胆であることは間違いない。だが、それはビジネスマンが成約できない取引先に、帰り際に電話して「一杯飲もう」と声をかけるようなものである。それによって取引が進展する可能性はないとは言えないが、気ままな接待攻勢以外の何物でもない。メキシコからの不法移民問題に「関税」を課すと脅したように、トランプ大統領の手法は「大胆」というよりは、前例がないというだけである。前例がないことをやることがトランプ氏の選挙戦略である。だから来年の大統領選挙まで、同じことが何回も、何回も繰り返される。貿易も安保も人権も、事前に周到に準備された“思いつき発言”によって揺さぶられる。米国の有権者は本当にこれで喜んでいるのだろうか?