日銀が1日発表した6月の短観は景気減速を浮き彫りにし、今年後半にも経済が回復基調に戻るとの政府・日銀のシナリオには暗雲が立ち込めている。6月末の米中首脳会談では貿易摩擦の抜本的な解決策は示せず、10月の消費税増税による国内景気の悪化懸念も拭えない。米国の利下げを背景に円高が加速すれば、日銀が追加の金融緩和策に動く可能性は十分にある。
「投資意欲が堅調とは言い切れない」。農林中金総合研究所の南武志主席研究員は、今年度の大企業・全産業の設備投資を7・4%増と見込んだ短観結果について、楽観を危惧する。
日銀は、先行きに対する企業マインドを映す指標ともされる設備投資が「過去平均よりも高い水準で推移している」として、景気の堅調な推移を見通した。
ただ、昨年度の設備投資額(実績値)は予測値だった前回3月から5・9%下方修正された。先送り分が今年度の投資に含まれている可能性がある。さらに、世界経済の減速を受けた輸出減少が投資に波及すれば「下方修正の可能性もある」(南氏)。
「一時休戦」となった米中貿易戦争だが、これまでに発動された両国の報復関税は解除されず、景気回復に向けた材料は乏しい状況だ。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「米中の貿易協議再開は不透明性の緩和にはなるが、景気浮揚のカンフル剤にはならない」と強調。「今年終盤には世界経済が失速し、日米の経済が軽微な景気後退に転じる」と、厳しい見方だ。
中国の6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は好不況の節目となる50を2カ月連続で下回った。今後発表される各国の経済指標が悪化すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が7月にも減速リスクに先手を打つ「予防的」な利下げに踏み切るとみられ、日米の金利差縮小で円高圧力が強まるのは必至だ。そうなれば、輸出依存度が高い製造業の業績が落ち込み、株価下落も招きかねない。
大企業製造業の景況感は、消費税率を8%に引き上げた平成26年4月の直前(同年3月はプラス17)よりも今回(プラス7)の方が弱い。発射台が低い分、増税による消費悪化の影響が大きく作用する懸念もある。増税や円高が景況感のさらなる悪化を招けば、日銀の追加緩和による景気の下支えへの期待は高まる。
(西村利也)